コラム

実害を及ぼすアメリカの陰謀論はもう笑えない!(パックン)

2021年02月20日(土)15時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

No Longer Funny / (c)2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<陰謀論は面白いが、陰謀論者が連邦議員に当選したらもうちっとも面白くない>

陰謀論はキラーコンテンツだ。証拠も根拠もない荒唐無稽な主張はよくメディアに取り上げられる。面白いから。しかし、陰謀論に基づいた事件が起きると面白みが一瞬で消える。

「ヒラリー・クリントン率いる闇組織がピザ屋を拠点に児童の売買春をしているって?! ハハハ! ウケる~!」となるのが本来の展開。でも、陰謀論を信奉する運動QAnon(Qアノン)の前兆であるこの「ピザゲート」という陰謀論を信じた男が実際にピザ屋を銃撃したとき、笑えなくなった。

「ユダヤ人がわれわれ白人に取って代わろうと移民を招き入れている」という陰謀論もばかばかしくて笑えそう。だが、「ユダヤ人は取って代わるな!」と唱えながら行進した白人至上主義者が彼らに抗議する人をひき殺した日に、笑いが消えた。

「大統領選に不正があった」という主張も、複数の裁判で「笑い飛ばされた」が、そう信じたトランプ支持者が連邦議会議事堂に乱入し、警察官を殺害して、喜劇が悲劇に変わった。

「被害者が出るまでは面白い」という陰謀論ばかりではない。20人の小学生が射殺されたコネティカット州の銃乱射事件や、17人が亡くなったフロリダ州の高校での乱射事件を「自作自演の作り話だ」と主張する陰謀論は最初から面白さゼロ。

最近は陰謀論に対する意識が変わってきた。面白がるのではなく、実害を伴うものとして怖がる、嫌がる、そして取り締まる傾向が見えてきた。

風刺画では陰謀論者への罰はWoven from the silken hair of conspiracy theorists(陰謀論者の輝く髪で編まれた)拘束衣(straightjacket)として描かれている。実際には不正選挙説を広めるこの枕メーカーのマイク・リンデルCEOは、デパートを含む取引先から看板商品のマイピローの販売契約を切られた。陰謀論ほど安眠できないピロートークはないからね。

そして選挙不正だけではなく、ここで紹介した陰謀論を全部広めているマージョリー・テイラー・グリーン(Marjorie Taylor Greene)も下院の委員会から除名された。そう! 陰謀論者が連邦議員に当選したのだ! もうちっとも面白くない。

【ポイント】
HI, I'M MIKE LINDELL, INVENTOR OF MYPILLOW. INVITING YOU TO TRY MY LATEST PRODUCT: MYSTRAIGHTJACKET

やあ、私は「マイピロー」の発明者、マイク・リンデル。今日は最新商品の「マイストレートジャケット」をご紹介しよう。

MORE COMFORTABLE THAN A QANON T-SHIRT
QアノンのTシャツより良い着心地

MYSTRAIGHTJACKET IS 100% MADE IN WHAT USED TO BE AMERICA! GET YOURS TODAY!

マイストレートジャケットの原料は100%「かつてアメリカだったもの」! 本日ご注文をどうぞ!

I WOULDN'T STORM THE CAPITOL WITHOUT ONE!
議事堂の襲撃にぴったりな一着!

<本誌2021年2月23日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story