コラム

感染広がる反ワクチン運動から子供を守れ(パックン)

2019年05月24日(金)17時20分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Measles Crisis Underway / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<はしかのワクチン接種が自閉症を引き起こす、という陰謀説から広がった反ワクチン運動ではしかの患者数が急増する事態に>

化学、教育、公共保健制度。3つのコラボレーションが大成功をなした!

僕の親が若かった頃、アメリカで麻疹(はしか)の感染は毎年数百万人に上り、約500人が死亡していた。だが、1963年に予防接種が始まり、2000年に「はしかの撲滅」が宣言された。めでたしめでたし!

残念ながら、物語はそこで終わらない。はしかがなくなる傍ら、同時期に新しい感染がはやり始めた。それは「MMR(はしか、おたふくかぜ、風疹の3種混合)ワクチンが自閉症を引き起こす可能性がある」という陰謀説。1998年にイギリスの医師アンドルー・ウェイクフィールドが12人の子供を症例に、そんな報告を医学誌ランセットに掲載した。これが「誤報の感染」のきっかけとなった。自閉症を恐れ、予防接種を子供に受けさせない親が増え、イギリスではしかの患者数も急増。1998年の56人が10年後には1370人になっていた。

もちろん「病原」となった研究に対して、医療業界は反撃した! 100以上もの研究結果と大勢のデータをもって、予防接種と自閉症との関係性を完全否定。さらに、ウェイクフィールドがワクチンメーカーを訴えていた弁護士から大金をもらっていたことや、自ら開発したワクチンの商売を目指していたという利益相反が判明した。当然、ランセットは記事を撤回し、ウェイクフィールドは医師免許を剝奪された。めでたしめでたし!

いや、ここでも終わらない。汚名が付いたウェイクフィールドはテキサス州に引っ越し、反予防接種運動をアメリカでも起こした。なぜか弁護士のロバート・ケネディJr.、俳優のロバート・デ・ニーロなどの有名人もその運動に加担した。ドナルド・トランプ大統領も「健康な子供が予防接種を受けて、体調を崩し......自閉症に」などと、20回以上もツイートして陰謀説を広めた。結局アメリカの親もだまされ、予防接種率が下がったことで予想どおりの結果が起きた。20年前に撲滅したはずのはしかに今年は830人以上が感染している。ばかばかしいばかばかしい!

風刺画で子供が望んでいるような「僕を間違った育児から守ってくれるワクチン(a vaccine to protect me from lousy parenting)」はまだできていないけど、一つだけ喜ばしい展開がある。トランプは先日の記者会見で「予防接種は大事だ。受けないと!」と、スタンスをひっくり返した。でも心配だ。正しいことを言っている大統領なんて、熱でもあるんじゃない?

<本誌2019年5月24日号掲載>

20190528cover-200.jpg
※5月28日号(5月21日発売)は「ニュースを読み解く哲学超入門」特集。フーコー×監視社会、アーレント×SNS、ヘーゲル×米中対立、J.S.ミル×移民――。AIもビッグデータも解答不能な難問を、あの哲学者ならこう考える。内田樹、萱野稔人、仲正昌樹、清水真木といった気鋭の専門家が執筆。『武器になる哲学』著者、山口周によるブックガイド「ビジネスに効く新『知の古典』」も収録した。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-〔アングル〕政策株解消で揺らぐ「岩盤」、物言

ワールド

中東情勢悪化に伴う影響「予断持てず」、原油動向次第

ビジネス

中東情勢悪化に伴う影響「予断持てず」、原油動向次第

ビジネス

独鉱工業受注、1月は予想以上に減少 生産もマイナス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 2
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 5
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 6
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 10
    最後のプリンスが「復活」する日
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story