コラム

朝鮮半島の混乱に備えて「5カ国協議」体制を

2017年09月05日(火)16時30分

このことを考えると、中国に「丸投げ」というシナリオは避けなくてはならず、かなり早い段階から、「そうではない」動きに持っていかなくてはなりません。そうなると、ますます北朝鮮の体制変更が発生した場合の対応について、日本、中国、アメリカ、ロシア、韓国の「六者会合から北朝鮮を除いた5カ国」で実務的なすり合わせをする必要があると思います。

考えてみれば、ドイツ再統一の際にも、欧州全域で「強すぎるドイツの成立」を警戒する動きがありました。その結果として、ドイツは国境線に関する大幅な譲歩を呑み、またEUやユーロ体制という枠組みによって欧州の安全を保障するという体制ができています。

朝鮮半島の問題も、例えば日本の場合「反日を求心力とした統一朝鮮ができては困る」という問題を、自分だけで悩んでいても仕方がありません。この問題を含めて、関係諸国で腹を割って協議をしていくしかないと思います。

統一朝鮮ができた場合に潜在的なリスクを感じているのは日本だけではありません。中国の場合も、朝鮮族自治州について仮にも統一朝鮮が編入を要求するような事態になれば、大変に困るわけで、この点も自分たちが強圧的に拒否するより、多国間の枠組みで冷静に処理するほうがメリットがあるはずです。

【参考記事】北朝鮮を止めるには、制裁以外の新たなアプローチが必要だ

具体的な問題としては難民問題があります。北朝鮮が混乱すると海を渡って難民が来るので、日本は「偽装難民」への警戒をすべきだという議論があります。もちろん実際にそうした事態が発生した場合には、現代の日本人は警戒心が暴走するようなミスはしないと思いますが、考えてみれば混乱の先に「民族統一」というテーマがハッキリ見えているのであれば、北の難民はあくまで韓国内で収容するのが筋です。

問題は経済で、韓国の現在の経済情勢が大量の難民受け入れをするほどの余力がないのであれば、大統領が国際社会に正直にそのことを説明し、国際社会は広範囲でそのコストの一部を援助するような枠組みを作って応えるようなことが必要でしょう。国連も当事国出身の事務総長から、ポルトガル出身のグテーレス氏に代わっているので、多少は動きやすいのではないでしょうか?

いずれにしても、北朝鮮に対して国際社会は、今はプレッシャーをかけて「核放棄を前提とした交渉の場」に引っ張り出す時期だと思います。ですが、それだけでなく、仮に北朝鮮の体制が動揺した際の対処方法に関しても、関係5カ国が腹を割った調整をしておくことが必要であるし、各国がそれぞれ個別に悩むよりは、はるかに良い見通しが得られるのではないでしょうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 9
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 6
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story