Picture Power

スイス軍の元要塞を生きた遺産に

A ROOM WITHOUT A VIEW

Photographs by ARND WIEGMANN

スイス軍の元要塞を生きた遺産に

A ROOM WITHOUT A VIEW

Photographs by ARND WIEGMANN

スイス軍の要塞から4つ星ホテルに生まれ変わったラ・クラウストラのレストランはむき出しの岩壁も雰囲気満点

 1泊200ドルのスイスの高級ホテルに泊まるなら、部屋からはアルプスの山々か湖の眺望を期待したいところ。だがラ・クラウストラに滞在する客が通されるのは、「眺めのない部屋」だ。

 ゴッタルド峠にあるこの4つ星ホテルでは、全17の客室はごつごつした岩壁に最低限の内装が施されているだけ。ここで宿泊客はほかにはない体験ができる。かつてスイス軍の塹壕だった場所で一晩を過ごせるのだ。

 ラ・クラウストラだけではない。スイスでは今、元塹壕や武器庫が次々と新しい姿に生まれ変わっている。歴史博物館や堅牢なデータセンターに姿を変えたものもあれば、キノコ農園やチーズ工場になったものもある。

 第二次大戦中、スイスは国中に約8000の塹壕を張り巡らせた。枢軸国に囲まれた永世中立国が侵略を避けるには、何より強力な要塞が必要だった。だが情勢の変化で脅威は低下し、維持費はかさむ一方。軍は90年代から塹壕の削減を始めた。

 軍の防御施設に加えて、冷戦期には数多くの一般家庭に核戦争に備えたシェルターが設置された。これらも現在では物置やワインセラーなどとして、上手に有効活用されている。


【撮影:アルント・ウィーグマン】
ドイツ生まれ。20代はスタジオで広告写真に携わる。その後ニュース写真に転向し、現在はロイター通信で主に金融やビジネス、スポーツなどの撮影を担当している。スイスのチューリヒ在住

Photographs by Arnd Wiegmann-Reuters

<本誌2016年2月9日号掲載>



【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 4

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中