コラム

アメリカの現代のノマド=遊牧民をリアルに切り取る『ノマドランド』

2021年03月25日(木)18時30分

旅のなかで過去やしがらみから解き放たれる

特に彼らが再会する場面は印象深い。エンパイアで代用教員をしていたファーンは、ガールフレンドへの手紙になにを書けばいいかわからないデレクに詩を勧め、シェイクスピアのソネットを暗唱してみせる。その内容は彼女の心境の変化を示唆しているようにも思える。

ファーンには、デレクに通じる放浪者としての側面もあり、バッドランズ国立公園やレッドウッド国立州立公園で、雄大な自然に深く引き込まれていく。ジャオ監督がしばしば日没前や日の出後のマジックアワーを狙っているため、その光景は幻想的にも見える。

バッドランズ国立公園では、ファーンが奇岩地帯を歩き回るうちに方向感覚を失う瞬間があるが、そうした体験が彼女を確実に変えていく。彼女は旅のなかで過去やしがらみから解き放たれ、先述のソネットに重ねるなら、路上が、自分の目で見て、肌で感じつづける限り、色あせることのない世界になる。

ジャオ監督は、現代のノマドをリアルに切り取るだけではなく、ファーンが生まれ変わり、世界との新たな関係を築くイニシエーションを鮮やかに描き出している。

《参照記事》Meet Swankie, the Arizona-based breakout star of the Oscar-nominated movie 'Nomadland' by Bill Goodykoontz | azcentral.com (Mar. 16, 2021)

『ノマドランド』
3月26日(金) 全国公開
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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