コラム

「NGリスト」ジャニーズ事務所に必要なのは、3回目の記者会見ではない

2023年10月07日(土)16時33分

今こそ和解のチャンス

BBCのドキュメンタリーは日本社会の常識を変えたが、BBCの取材の端緒は元はと言えば1999年の週刊文春キャンペーン報道にある。あまり誉めそやすのは本意ではないが、週刊文春による一連の報道がなければ、BBCのドキュメンタリーもないわけで、私たちは今頃まったく別の世界線で「ジャニーさん、ありがとう!」と卑劣な性加害者を礼賛し続けていたかもしれない。

ジュリー元社長にお伝えしておくと、週刊誌は新聞やテレビよりもずっと多くの紙幅を割けるので言葉を尽くして語れる上、作り手の気質も少々異なる。

「社会正義の実現」に重きを置く新聞やテレビの報道番組と異なり、週刊誌には良くも悪くも世の中の出来事を「面白がる」精神がある。それは人間の醜い部分やどうしようもない部分をも描き出す文学というものが、出版業界の中心にあるからだろう。ゆえに、週刊誌の単独インタビューの場なら「何々すべきではないのか!」と詰問調で畳み掛けられるような心配もないはずだ。

1999年のキャンペーン報道当時、週刊文春は全然売れなかったという。それだけ、世の中全体の人権意識が低かったということでもある。当時のメディアは愚鈍だったが、私を含め多くの日本人もまた、愚鈍だったのだ。メディア業界のなかでも、あのキャンペーン報道は明らかに経済合理性に適っていない酔狂な行為と見做されていたはず。24年の月日を経て、それがついに日の目を見たのである。

キャンペーン報道後、ジャニーズは週刊文春の発行元である文藝春秋から自社タレントが出演するあらゆる広告を引き上げ、書籍の帯にすらタレントの画像を使わせなかったという。以来、両者は宿敵関係が続いていた。

そろそろ、手打ちをしても良い時期ではなかろうか。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story