最新記事
シリーズ日本再発見

「吉原見物」とは何だったのか?...出版文化が生んだ「聖地巡礼」に武士も庶民も女性も虜になった

2025年02月01日(土)09時10分
永井義男(小説家、江戸文化評論家)
『青楼美人合姿鏡 員外』

『青楼美人合姿鏡 員外』北尾重政(1世)/著,勝川春章//画 山崎金兵衛,蔦屋重三郎「刊] 安永5(1776)年刊 国立国会図書館デジタルコレクション

<戯作や錦絵の舞台となった吉原を実際に見てみたい。しかし、たいていは見物だけで登楼はしていなかった...>

蔦屋重三郎が生まれた「吉原」だけではない、日本各地の色町。教科書では、けして知ることができない色艶な街の実情とは? 120点以上の豊富な図版が収められた、2025年大河ドラマ必携書『江戸の性愛業』(永井義男著、作品社)よりコラム「吉原見物は聖地巡礼」を抜粋。


 
◇ ◇ ◇

現代人が「江戸の遊廓」と聞いたとき、まず頭に浮かぶのは吉原であろう。江戸時代の人々も同じだった。

当時、全国各地に遊里があり、多種多様なセックスワーカーがいた。そんな中にあって、吉原の知名度と人気は傑出していた。

藩主の参勤交代に従って江戸に出てきた藩士――勤番武士が江戸で最初に行きたがったのが吉原だった。ただし、金銭的な余裕がないので、たいていは見物だけである。

佐賀藩鍋島家の藩士・牟田文之助は幕末期、剣術修行で全国各地をまわったが、江戸では藩邸に滞在した。日記『諸国廻歴日録』によると、安政元年(1854)3月3日、佐賀藩士に案内されて吉原に行っている。文之助は花魁道中を見物して大いに感激しているが、登楼はしていない。

紀州藩徳川家の下級藩士・酒井伴四郎は江戸詰めを命じられ、万延元年(1860)5月、江戸に出てきた。『酒井伴四郎日記』によると、7月16日、藩士ら総勢5人で藩邸を出て、吉原見物をしている。ただし、伴四郎らは見物だけで、登楼はしていない。

諸藩の武士だけではなく、地方の庶民も吉原に行きたがった。商用などで江戸に出てきた商人は無理をしても時間を作り、吉原に足を運んだ。

では、なぜ、みな、これほど吉原を見物したがったのだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン指導部の崩壊、「目標ではないが起こり得る」=

ワールド

ウクライナ陸軍新司令官にシャポバロフ氏 ゼレンスキ

ワールド

トランプ氏、イスラエル・イラン紛争への対応を2週間

ワールド

カナダ、鉄鋼・アルミ輸入に新関税制度導入へ 米の追
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 7
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 8
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中