最新記事
シリーズ日本再発見

「おもてなし」の精神で受動喫煙防止に取り組む京都

2016年10月20日(木)11時30分
高野智宏

規制による強制力よりも、京都人ならではの意識で

「現在の活動としては、市内の全飲食店を対象として『店頭表示ステッカー』を配布し、掲示を依頼している」と、京都市の担当部署である保健福祉局保健衛生推進室の小西直人氏は説明する。「これにより、お店のたばこに対するスタンスをお客さんが入店前に把握できるようになる。ただし、ステッカーの掲示はあくまでも各事業者に自主的に取り組んでもらうものであり、行政としては積極的な協力を依頼している」

 小西氏は、この協定の締結と取り組みには、国内随一の観光都市であること、そして、そんな土地に暮らす京都人ならではの意識があると言う。「市民はもちろん、国内外から多く訪れる観光客にも、喫煙者か非喫煙者かに関わらず、気持ちよく京都の街で過ごしてもらいたい。受動喫煙の防止策も、皆さんの主体的な努力と、そんな京都らしい"おもてなし"の意識をもとに推進したほうが、規制による強制力よりも効果的ではないか。そうした3者一致しての考えが、この協定の締結の背景にはある」

 規制よりも"おもてなし"とは、なるほど京都らしい考え方だ。「全面禁煙か完全分煙か」を飲食店に迫る厳しい受動喫煙防止条例を定めた自治体からは、飲食店の売り上げが減ったとか、規制対象の店舗がコスト面から現実には対応できていないといった声も聞こえてくる。そんななか、取り組みが看板倒れにならないよう、現実的な道を選んだという一面もあるのかもしれない。

 では、この「第三の道」を具体的にどう歩んでいるのだろうか。

 現在、店頭表示ステッカーの配布は官民一体となって行っており、市は各区の保健センターで、営業申請に来た事業主に趣旨を説明する取り組みもしている。

 ステッカーの配布が開始されたのは、3者間の協定締結より前の2013年12月のこと。実質的な活動を統括する協議会にこれまでの活動状況を聞いた。「当初は協議会の母体となる各組合に加盟する店舗や施設にステッカーとパンフレットを配布し、掲示を依頼した。その結果、やはり京都の玄関口たる京都駅構内店舗の掲示率は非常に高く、後に100%の掲示率を達成できた」と、協議会事務局の南部和久氏。

japan161017-3.jpg

京都駅構内のカフェでは入口のガラス戸に「完全分煙」のステッカーが(提供:協議会)

 しかし、そこから先が難しい。京都市には飲食店や宿泊施設などステッカー掲示の対象店舗が約7000店舗あるが、組合に加盟しているのはそのうち3~4割程度。つまり、4000店以上の店舗がこの取り組み自体を知らない、または趣旨を理解していない。そのため、さらなる普及を推進するため、今年2月、JTと包括協定を締結。これにより全7000店舗・施設への直接訪問が可能となり、ステッカー掲示の取り組みを粘り強く続けている。

 とはいえ、南部氏によれば、1度の直接訪問で掲示店舗が一気に増えるとは考えていない。「決定権のあるオーナーが不在の店舗もあれば、検討する時間が必要な店舗もある。今後さらにそうした店舗への再訪問を実施し、引き続き協力を要請する手順を考えている」という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中