コラム

チェチェンでサッカーW杯?

2010年12月20日(月)15時22分

 2018年のサッカーW杯はロシアで開催されることが決まったばかり。そして今、南部チェチェン共和国がW杯の試合を行いたいと名乗りを上げている。

 チェチェン共和国といえば、長年独立を目指してロシアと戦ったイスラム系住民が中心の地域。大統領の暗殺や追放を経て、現在ではロシア政府の傀儡といわれるラムザン・カディーロフが、ウラジミール・プーチン首相の「指名」で首長(共和国大統領から改称)として君臨している。

 このカディーロフの評判はすこぶる悪い。チェチェン人武装勢力出身で、現在チェチェンで恐怖政治を敷いている。カディーロフはテロとの戦いを口実に独自のイスラム的模範を国民に押し付け、チェチェンでは武装勢力による反カディーロフ(そして反ロシア)のテロ事件が日常的に発生。今年8月末、カディーロフの故郷の村が武装勢力に襲撃され、10月にも首都グロズヌイの議会庁舎が襲撃されて特殊部隊と武装勢力が銃撃戦になった。

 それだけではない。権力に対して命がけで立ち向かうロシアのジャーナリストたちを追った『暗殺国家ロシア』(福田ますみ、新潮社刊)では、チェチェン当局による迫害をロシアの独立系全国紙で実名告発したイスラム教徒の行方不明事件が紹介されている。カディーロフは「さながら、広域暴力団組長のような大統領」とも呼ばれているという。

 本誌の記事では、「ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、チェチェン戦争が終結したとされる02年以降に治安当局によって『行方不明』になった人は2万人以上に達する」という。ドミトリー・メドベージェフ大統領は昨年、チェチェンがロシア国内最大の政治問題であると発言している。

 さらにロシアでは最近、極右フーリガンによる暴動が発生。民族主義の極右と、熱狂的(で暴力的)なサッカーファン、いわゆるフーリガンが一緒になって暴徒化したのだ。この極右フーリガンは、カフカス地域の出身者たちと衝突して死傷者を出している。チェチェンでW杯の試合が開催されたら、こうしたフーリガンも乗り込んでくるだろう。

 カディーロフは「新しいスポーツ施設を建設中で、試合開催を提案するのは自然なことだ」と公式サイトで発表。だがチェチェンでW杯の試合が行われたとしても、観戦に行くには勇気がいりそうだ。

ーー編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story