コラム

ウィキリークス・レイプ疑惑の真相とは

2010年09月10日(金)14時35分

 アフガニスタン戦争の関する米軍の機密文書を公開して注目される内部告発サイト「ウィキリークス」の共同創設者ジュリアン・アサンジに持ち上がったレイプ疑惑。当サイトでも報じている通り、一旦逮捕状を取り下げたスウェーデン検察が、9月に入って再び捜査を始めることを発表した。

 ウィキリークスが、まだ公開していない米軍の機密情報を暴露する予定でいたことから、ネット上ではCIA(米中央情報局)や米国防総省の妨害工作ではないかと話題となった。疑惑の人アサンジも「何者かの陰謀」論を唱えている。

 ただ情報機関の陰謀にしては、余りに稚拙に感じられる。少し時間が経ってしまったが、英タブロイド紙「デーリー・ミラー」が「被害女性2人の警察への供述書にもとづく事件の経緯」を掲載している。同紙は地元スウェーデンのメディアを通じてこの供述書を入手したと説明している。もちろんタブロイド紙なので、信憑性はその分差し引かなければならない。

 記事によると、事件の概要は以下の通りだ。

≪女性A≫
 今年8月11日、アサンジはスウェーデンの社会民主党が14日に開催する講演会に出席するためにストックホルムに到着。党職員の20代の女性Aさんは、アサンジの講演会やスウェーデンでの就労ビザ申請の手続きのサポートを担当していた。

 Aさんはストックホルムの自宅アパートに滞在するようアサンジに「申し出て」、アサンジの滞在中は実家に帰る予定だった。しかし前日になって「講演会の準備の作業量が多いことに不安を感じて」アパートに帰宅。アサンジと一緒に食事に出掛け、2人はその夜、関係を持った。

 行為中にコンドームが破れるハプニングがあり、Aさんはアサンジが「わざとやったと思った」が、アサンジは故意ではないと主張した。

≪女性B≫
 その14日の講演会に、アサンジ目当てで参加したのがBさん。テレビでインタビューを受けるアサンジを見て「一目惚れ」し、講演会にやって来た。当日はアサンジの目をひくようにショッキングピンクの上着を着て、最前列に座った。

 講演会でアサンジは90分間に渡って「戦争の一番の犠牲者は真実」というテーマで熱弁をふるう。終了後会場の外で待ち構えていたBさんは、取り巻きと共にランチに出掛けるアサンジに合流。その後アサンジと2人で一緒に映画を見に行ったが、その日はアサンジがパーティーに出席するために別れた。

 翌日、Bさんはアサンジの携帯にかけるが連絡が付かない。その次の日にようやくアサンジと連絡が取れたBさんは、アサンジの意向に従ってアサンジを郊外の自宅に連れてくる。しかし一緒に列車に乗っていた45分間、アサンジはパソコンやメールに没頭。Bさん曰く「情熱はすっかり消え失せてしまったようだ」。

 その後の経緯は供述調書のほとんどが黒塗りされていて不明だという。捜査関係者によると、「Bさんはコンドームを着けるようアサンジに言ったが、アサンジはそうしなかった」。

 翌日、Bさんはアサンジと一緒に朝食を食べて別れた。その後アサンジからは何の連絡もなかった。

 性感染症や妊娠の恐怖にかられたBさんは、講演会で見かけたAさんに連絡して状況を説明。共にアサンジの「魅力の犠牲者」になったことを認識した2人は意気投合して警察へ乗り込み、アサンジを告訴したという。

 一方のアサンジは女性2人と関係を持ったことは認めた上で、「双方の合意に基づかない性行為はしていない」と、容疑を否認しているという。

 Bさんに関する黒塗りの部分がおそらくレイプ容疑の核心となるため、この経緯から事件がレイプにあたるかどうか判断することはできない。しかし日本の常識で考えれば、レイプどころかわいせつ行為にすら問えないという印象を受ける。同時に、情報機関が仕掛けた巧妙な事件でもなさそうだ。

――編集部・知久敏之

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story