コラム

アフガンへ「日本国民からの贈り物」

2010年08月01日(日)12時00分

 最近はアフガニスタンでの戦いがドツボにはまっているというニュースが溢れ、そろそろ耳タコ状態になりつつある。日本にいると、アフガニスタンは一見「遠い存在」だ。途方もない距離を感じながら読んでいると、正直「またか」という感想で終わってしまいそうになる。

 でも実際には、アフガニスタンの情勢は日本にとってひとごとではない。7月20日にアフガニスタンで開かれた支援国会議では、岡田外相が2010年末までに約11億ドル(約955億円)相当の支援を約束した。日本によるアフガニスタン支援は、09年から5年間で最大50億ドル(約4350億円)規模となる予定。下世話な言い方をすれば、日本とアフガニスタンは少なくとも「4350億円分の関係」はあるだろう。

 4350億円といえば、大問題になった八ッ場ダム(群馬県)の事業費4600億円とそう変わらない。これだけの税金が使われながら、日本にいるとアフガニスタンがやっぱり遠いのは何故だろう。アフガニスタンでも、日本は「見えない存在」なのだろうか。もし見えないのなら、インド洋での給油活動の代わりに4350億円支援を決めたとき、米識者が言った「日本がまた(人的貢献をしないでカネだけ出す)世界のATMに戻る」という一言も一理あるかもしれない。

 そこで、国連世界食糧計画(WFP)アジア地域局長としてアフガニスタンを含むアジア14カ国の支援を統括している、忍足謙朗(54)さんに聞いてみた――アフガニスタンの人たちにとって、日本からの支援は見える存在なのだろうか。

 忍足さんによると、少なくとも「食糧」という形の支援については「はっきり見えるし、触れられる」のだそう。WFPというのは、世界中で食べる物に困っている人に食糧支援活動を行う国連機関。日本は今年、WFPを通してアフガニスタンに51億2000万円を拠出している。

 配給する食糧の袋にはすべて、「日本政府」からではなく『GIFT FROM THE PEOPLE OF JAPAN(日本国民からの贈り物)』と書かれている。だから、「日本の人たちからだとはっきりわかる。それが学校給食から各家庭の台所にも、何十万トンと入っていく」と忍足さんは言う。

 たとえば、アフガニスタンだとこんな感じ。
アフガニスタン.jpg(C)WFP/Mike Huggins

 そのほか、日本からの援助はこんなところにも。
イラン.jpg
イラン  (C)WFP/Brian Gray

ガザ.jpg
パレスチナ自治区ガザ (C)WFP/Ayman Shublaq 

ケニア.jpg
ケニア (C)WFP/Gabriel Baptista 

ジンバブエ.jpg
ジンバブエ (C)WFP/Richard Lee

スーダン.jpg
スーダン (C)WFP/Boris Heger

フィリピン.jpg
フィリピン (C)WFP/Amy Horton

ミャンマー.jpg
ミャンマー(ビルマ)(C)WFP/Than Tin Lily


 上に挙げた国(地域)は、ニューズウィークでもよく取り上げている。「日本国民からの贈り物」が元は税金だったことを考えると、納税者である私たちはこうした国と無関係ではないだろう。ニュースになっている国とのつながりを「税金」という形で考えるのも、読む際の距離感を縮める1つの手かもしれない。ちなみに日本は今年、WFPを通じて15カ国へ113億円規模の食糧支援を決定している。

 日本が「世界のATM」だとして、ATMから引き出されたキャッシュが食糧に様変わりするのなら、アフガニスタンの人にとっては給油とどちらが嬉しいだろうか。忍足さんは支援の形は物資でも嬉しいとしながらも、「キャッシュの方が物資を現地で調達できるなど融通が利き、輸送時間も短いし、好ましい」と率直に語っていた。効率が良くて質の高い援助ができているのかをモニタリングするのも、WFPの仕事だという。

 とはいえ、アフガニスタン支援のための日本からの拠出金で、WFPへの拠出が占める割合は一部に過ぎない。見えない部分が、まだまだたくさんあるともいえるだろう。国際援助を事業仕分けすると「ムダ」ばかり注目されがち(報道されがち)なので支援の実態は伝わりにくいかもしれないが、自分たちの税金が具体的にどう生かされているのか、生かされていないのかは、それが海外だろうと気になるところだ。

忍足さん.JPG

――編集部・小暮聡子

このブログの他の記事も読む

忍足謙朗(おしだり・けんろう)さんは、WFPの最高幹部で数少ない日本人の幹部級国連職員の1人。 09年9月にアジア地域局長に就任する前は、WFP駐スーダン代表として(ダルフール紛争などを抱える)スーダンでWFP全職員の4分の1にあたる2500人を率いていた。現在はバンコク在住(7月28日、青山の国連大学にて)

 

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story