コラム

BPを「英国石油」と呼ぶ米国

2010年06月11日(金)11時00分

 メキシコ湾の原油流出事故をめぐり、米政府・議会による英石油大手BPのバッシングが激しさを増している。「イギリスという外国の企業」を叩くかのような発言も飛び出し、なんだかイヤ~な空気になりつつある。

 バラク・オバマ大統領は8日、「自分の生活を取り戻したい」などと能天気な失言を繰り返すBPのトニー・ヘイワード最高経営責任者(CEO)について、「自分ならクビにしているだろう」とNBCの番組で語った。例え話とはいえ、一国の大統領が企業の経営者を解雇すると言うのは尋常ではない。オバマ自身が流出事故への対応が鈍いと批判されているせいか、BPにきつく当たりたくもなるのだろう。

 一方、アンソニー・ワイナー下院議員(民主)は、「ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)を代表してイギリスなまりで話す者は、誰であれ真実を語っていない」とMSNBCの番組で述べた。これはイギリス人差別とも受け取られかねないヤバい発言だ。これを聞いた司会者は「カモーン!」と突っ込んでいる。

 ブリティッシュ・ペトロリアム(British Petroleum)はBPが98年まで使っていた社名。仮に英国石油とでも訳しておこう(ちなみに日本語で「英国石油」をグーグル検索すると、BPの英語サイトがトップに表示される)。

トヨタが「日本自動車」だったら

 米政府関係者にはBPをこの古い社名で呼ぶ人が少なくないと、英メディアは指摘する。それは、日本の国鉄がJRになってからもしばらく国鉄と呼ばれていたようなものかもしれない。だがBPが名前を変えたのは10年以上前だ。

 BPをブリティッシュ・ペトロリアムと呼ぶ背景には、ひどい原油流出事故を起こしたのはアメリカ企業ではなく外国の、イギリスの会社であることを強調する意図があるのかもしれない。サラ・ペイリン前アラスカ州知事もBPを「外国の石油会社」と呼んだ。だがBPは98年に米石油大手と合併しており、英タイムズ紙によると、全従業員約8万人のうちアメリカ人は2万2000人で、イギリス人の1万人より多い。株主の39%はアメリカ人で、40%のイギリス人とほぼ互角だ。

 こうした官民挙げての「反英発言」の高まりが英米関係を損ねかねないと心配する声が、英当局者から出始めた。イギリスでさえこうなのだから、これがアジアの企業だったらどうなるだろうか。

 突飛な連想をしてみた。もしトヨタ自動車の社名が例えば「日本自動車」で、英語名称がGMならぬJM、つまり Japanese Motors (ジャパニーズ・モーターズ)だったら、今年初めのリコール騒動はどんな展開になっていただろうか。もちろんトヨタがアメリカに根を張った日本企業であることはよく知られている。だが日本という国名が社名に入っていれば、日本や日本人に対する差別的な言動を引き起こしやすくなっていたかもしれない。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米12月失業率4.6%、11月公式データから横ばい

ビジネス

米10月住宅価格指数、前年比1.7%上昇 伸び13

ワールド

プーチン氏、イラン大統領と電話会談 核計画巡り協議

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story