コラム

『私は確信する』が教える「確信」することの危うさ

2025年12月24日(水)14時22分

冤罪が多く生まれる背景には、ヴィギエ事件や袴田事件と同様に和歌山カレー事件でも、メディアの影響が大きく働いている。

彼女がクロかシロかの断定は僕にはできない。でもこれだけは言える。少なくとも有罪判決を下せるほどの法的手続きを、司法は全く果たしていない。


この映画を観ながら、日本より成熟しているはずのフランスの刑事司法も、検察の正義の暴走やメディアの影響など、日本と同じような危うさをはらんでいることを知った。

そのキーワードはタイトルにもある「確信」だ(原題は「Une intime conviction」)。有罪を信じる側と無罪を信じる側。どちらもそれを正義なのだと確信している。

確信は真実ではない。揺るがないからこそ、むしろ真実を閉ざす扉になってしまう。

資料によれば、メインキャストでヴィギエを救おうと奔走するシングルマザーのノラは、登場人物の中ではほぼ唯一、映画のために造形された人物らしい。

ヴィギエの無実を「確信」して弁護活動を手伝うノラは、彼女自身の正義を実践するために一線を踏み外しかける。まさしく刑事司法という怪物を見つめすぎて、自分自身も怪物になりかける。

彼女をいさめるのが、ずっと並走してきたエリック・デュポン・モレッティ弁護士だ。ちなみに彼は、後にマクロン政権で法相に任命されている。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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