よくしゃべり、よく食べ、互いの体を貪り合う... 欲望全開でも静かな『火口のふたり』の2人

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<監督は荒井晴彦。キャストは賢治を演じる柄本佑と直子を演じる瀧内公美の2人だけ。人生はこれからだというのに、2人は何かを諦観したかのように静謐で...>
直木賞作家である白石一文による同名小説を原作とした『火口のふたり』は手ごわい。何が手ごわいのか。とても難解なのだ。そう書くと誰もが難しい作品を想い描くと思うが(当たり前だ)、作品そのものは決して難解ではない。いやむしろシンプル過ぎるくらいにシンプル。でも解釈が難解なのだ。
東日本大震災から7年が過ぎた夏。故郷を離れてから離婚と退職を経験し、さらに再就職後も会社が倒産した永原賢治は、かつての恋人だった従妹の直子の結婚式に出席するため故郷の秋田に帰省する。
物語はここから始まる。キャストは賢治を演じる柄本佑と直子を演じる瀧内公美の2人だけ。ほかには誰も出ない。でも観ている間は気付かなかった。観終えてから、あれそういえば2人だけだ、という感覚だ。
脚本は『赫い髪の女』『Wの悲劇』『共喰い』『幼な子われらに生まれ』などを手掛けた荒井晴彦。本作は彼にとって、『身も心も』『この国の空』に続く3作目の監督作品でもある。
宣伝のキャッチコピーは、「世界が終わるとき、誰と何をして過ごしますか?」......たぶんこのフレーズは荒井の趣味ではない。直感的にそう思う。でもある意味で、この映画のテーマを言い当てている。
世界の終わりと聞いて僕よりも上の世代は、スタンリー・クレーマーが監督した『渚にて』を思い起こすかもしれない。第3次世界大戦で北半球が壊滅して、深海に潜水していたアメリカ原子力潜水艦の乗組員たちは、北半球の唯一の生き残りとして南半球に向かう。しかし南半球も放射能の汚染からは逃れられない。やがて彼らは生存を諦めて、人類は少しずつ滅亡に向かう。
死を目前にした人たちは、驚くほど静謐(せいひつ)だったような気がする。そういうものかもしれない。うろたえたり泣き叫んだりパニックになったりするのは、おそらくはもっと前の時点なのだろう。
賢治と直子の人生はこれからだ。特に直子は10日後に結婚式が予定されている。今は独身の賢治だって、これから誰かと恋をして仕事も見つけなくてはならない。でも2人は、何かを諦観したかのようにとても静謐だ。とても静謐なまま欲望を全開して、朝から夜中まで擦り切れるほどの性交にふける。
2人はよくしゃべる。そしてよく食べる。つまり性だけではなくあらゆる欲望が全開なのだ。
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