生物の行動を決定づける「自由エネルギー」とは?「量子科学」と「脳科学」の融合が解き明かすこと
犬が散歩中に何かを見つけた場面を想像してほしい。犬の脳は、目の前のものが「食べ物か」「危険か」を判断しようとする。このとき脳がやっているのは、外界の「隠れた状態」を推論することだ。自由エネルギー原理によれば、この推論は「エネルギーを下げる」ことにより実現できる。つまり、統計学的な推論が、エネルギー最小化として表現できるのだ。
しかし、自由エネルギー原理を神経回路の実際の動作に落とし込むには課題もある。脳内の神経回路は複雑で、学習が「局所解」と呼ばれる行き止まりに陥りやすいという制約がある。これは機械学習でもよく知られた問題で、探索の途中で「そこそこ良いが最適ではない解」に落ち着いてしまう状況を指す。山登りに例えれば、坂を下っていったら谷底に着いたが、実はもっと低い谷が別の場所にあった──そんな状況だ。
磯村氏は、人間の脳が明らかに単純な最適化以上の柔軟性や創造性を示すことから、「脳がこの限界を超える何らかの仕組みを持っているのではないか」という仮説を披瀝した。
脳の限界と量子の可能性
そこで磯村氏は「重ね合わせ」に代表される量子の考え方に注目する。通常の計算機は、ある仮説をひとつずつ調べていく。しかし量子計算では、複数の状態を「重ね合わせ」として同時に扱える。
もし脳も、何らかの形で似た仕組みに基づいていれば、膨大な仮説空間を効率的に探索できる可能性がある。磯村氏は、脳が内部で保持する確率表現と、量子状態ベクトルが数学的に類似していることを指摘したうえでこう述べた。
「確率表現の自然な拡張として量子的な表現が考えられる」
さらに講演では、量子計算の基礎として、古典ビットと量子ビットの違いや、波の干渉を利用して答えの確率だけを増幅する「グローバーの量子探索アルゴリズム」が紹介された。
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