コラム

中国は新型肺炎とどう闘ったのか

2020年03月18日(水)15時55分

最近気になるのは、イギリスのジョンソン首相や、日本の一部の医療関係者のなかに、もはや新型コロナウイルスの封じ込めは不可能なので、国民の多数が感染して「集団免疫」が形成される状況に至るようにすべきだ、と言い始める人がいることである。理論的には、国民の60%ぐらいが感染すれば集団免疫ができるのだという。

目下のところ、中国はもちろん、韓国、日本、アメリカ、イタリア、そして当のイギリス自身も、まだウイルスを何とか封じ込めようとしており、「集団免疫」獲得戦略に転換した国はないように思うが、もし一国でもその戦略に転換した場合、世界はなかなかやっかいなことになる。

例えば世界の多くの国はウイルスを制圧したが、イギリスだけは封じ込めをあきらめて感染が広がり、最終的にはイギリス国民が集団免疫を獲得したとする。すると、集団免疫のない他の国々はウイルスの再侵入を拒むためにイギリスとの人の往来を制限することになるだろう。つまり、一国だけで「集団免疫」獲得戦略をとろうとした場合、その国は世界じゅうから出入りを制限される逆鎖国を強いられることになる。

それに、新型肺炎の致死率は中国で4.0%、日本では3.4%、イタリアでは8.9%にも及んでいる。これを「国民の60%」に乗じて推定死者数を計算したとき、なお封じ込めはあきらめるべきだと断言できる人がどれほどいるだろうか。

1月20日に新型コロナウイルスが人から人へ伝染することを明らかにするなど、ウイルスとの闘いの方向を指し示してきた鐘南山氏は、中国は4月末までに新型コロナウイルスをほぼ制圧し、正常な状態に復帰できるだろうと予測した。これまでも2月4日前後に感染拡大のピークが来ると予測するなど鐘南山氏の予測は的中してきたので、今回も的中するだろうと思う。

中国における最初の1カ月の手痛い失敗の経験と、その後の制圧成功の経験とは、このウイルスは制圧すべきだし、制圧可能であることを世界に示すはずである。

20200324issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月24日号(3月17日発売)は「観光業の呪い」特集。世界的な新型コロナ禍で浮き彫りになった、過度なインバウンド依存が地元にもたらすリスクとは? ほかに地下鉄サリン25年のルポ(森達也)、新型コロナ各国情勢など。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エアバス機不具合、CEOが謝罪 世界の航空会社に影

ワールド

アングル:「世界一幸せな国」に忍び寄る不安、経済低

ワールド

アングル:インドの路地から消える電子ごみ再生業、規

ビジネス

ANA、エアバス機不具合で30日も6便欠航 2日間
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story