コラム

本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベースカバーに走らなかった理由を考察

2024年11月12日(火)08時45分

唯一の違いは、打撃後のボールのスピードである。

1回表は打球スピードが遅かった。そのため、容易に捕球でき、一塁手が一塁までの最短距離、つまり、対角線上を移動できた。ところが、5回表の打球スピードは速かった。そのため、捕球するために平行線上を移動せざるを得なかった。その結果、一塁までの移動により多くの時間を要したのだ。これは、直角三角形をイメージすれば分かりやすい。

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出典:イラストAC


1回表は、斜辺を移動すればよかったが、5回表は、直角の両辺(対辺と隣辺)を移動しなければならかった。この長さのわずかな差が、アウトとセーフを分けたのだ。

さて、こうした違いを「意識すべし」と、コールに言えるだろうか。その要求は酷というものだ。

コールの対応を科学的に説明してみよう。1回表のベッツの打球をどう処理したか、その記憶がコールの潜在意識に入った。直前の記憶は、すぐに再利用される可能性が高いので、意識のすぐ下に保存されている。保存されているだけでなく、待機しているとみなすのが、プライミング効果だ。この記憶は、時間の経過とともに潜在意識の奥深くに沈んでいくのだが、まだそれは起きていない。そして5回表、まさにプライミング効果が発生した。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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