コラム

EU離脱後の英国を「呪縛」から解放する「ウルトラC」? 勝負に出たスナク首相

2023年02月28日(火)18時37分

交渉担当者は丸を四角にする方法を考案した

ジェフリー・ドナルドソンDUP党首は「大まかに言えば、多くの分野で大きな進展があった。一方で、懸念される重要な問題が残っていることも認識している。経済のいくつかの分野ではEUの法律が北アイルランドに適用されるという事実を覆すことはできない」と微妙な反応を見せた。しかし権力共有政府に戻らなければストーモント・ブレーキを発動できない。

ジョンソン氏やリズ・トラス前英首相ら強硬離脱派は議定書を一方的に無効にする北アイルランド議定書法案を英議会に提出、すでに下院で可決され、上院で審議中だ。しかし強硬離脱派の一部はウィンザー・フレームワークを称賛している。スナク氏はすぐには議会の採決にかけず、時間をかけて理解を広める慎重さを見せる。

研究プラットフォーム「変わりゆく欧州の中の英国」を主宰するキングス・カレッジ・ロンドンのアナンド・メノン教授は「この合意は私が想像していたよりずっと先に進んでいる。人々は主権と説明責任について異なる立場を取るだろう。しかし、英国とEUの交渉担当者は、一見頑固な丸を四角にする洗練された方法を編み出した」とツイートした。

ジョンソン氏一派の造反に保守党内の強硬離脱派が同調してスナク政権を退陣に追い込めば、解散・総選挙に追い込まれる恐れがある。そうなれば労働党政権の誕生は避けられまい。スナク氏はそんな情勢を読んで捨て身の勝負に出た。これまで解決不能と誰もが考えていた北アイルランド問題に真っ向から挑んだのだ。

いずれにせよウィンザー・フレームワークは労働党の支持を得て可決するだろう。しかし強硬離脱派とDUPの支持を取り付けることができればジョンソン氏一派を放逐することになり、スナク氏の政権基盤は一気に強まるだろう。EU離脱で落ち目になった英国が息を吹き返すきっかけになるかもしれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米

ビジネス

ECB、利下げごとにデータ蓄積必要 不確実性踏まえ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story