コラム

いまだ不人気のチャールズ国王だが、地球規模の気候変動対策「推進役」には適任だ

2022年10月15日(土)18時01分

「マグナカルタ(大憲章)」に倣った「テラカルタ(地球憲章)」

チャールズ国王はCOP27 に出席するための準備はすべて整っており、出席できなくても、どのように存在感を示すか、活発な議論が引き続き行われているとサンデー・タイムズ紙は伝えている。COP26で議長を務めたアロク・シャーマ元英ビジネス・エネルギー・産業戦略相はトラス氏とともにチャールズ国王がCOP27に出席することを求めている。

チャールズ国王は昨年、環境に優しい取り組みに投資するよう企業を説得することを目的とした自身の持続可能な市場構想の指針「テラカルタ(地球憲章)」を発表した。国王の権限を制限し、人々の基本的な権利と自由の信念をうたった1215年の「マグナカルタ(大憲章)」にならっている。

人類の行動を制限して自然に基本的な権利と価値を認め、人類と地球の調和を目指そうという画期的なアイデアだ。しかし先の保守党大会を取材していて気味が悪かったのはトラス氏の背後にいる欧州連合(EU)強硬離脱派のリバタリアンが市場原理主義に基づく温暖化対策を唱えていたことだ。

彼らは「ネットゼロ(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)を精査するグループ」を立ち上げた。一部のメンバーは「2050年までにネットゼロを達成するという政府の計画は常識外れの夢想に過ぎず、労働者により寒く、貧しい生活を強いる」と主張している。チャールズ国王の「テラカルタ」はこうしたリバタリアンの市場原理主義とは相容れない。

「トラス氏は完全に間違っている」

気候変動では「負の外部性(経済活動が第三者に有害な影響を与えること)」が発生するため、規制という政府の介入が不可欠になる。市場原理主義を貫けば英国の温暖化対策は後退する恐れがある。このため政府が50年までに「ネットゼロ」を達成するという脱炭素化の目標を弱めるか、放棄するのではないかとの疑念が膨らんでいる。

221015kmr_ccp05.jpg

『ノマドの世紀』を出版した英国の環境ジャーナリスト、ガイア・ヴィンス氏(筆者撮影)

気候変動がもたらす人類の大移動に警鐘を鳴らした著書『ノマドの世紀』を出版した英国の環境ジャーナリスト、ガイア・ヴィンス氏は筆者の質問にこう答えた。

「トラス氏は完全に間違っている。チャールズ国王はCOP27に行って演説すべきであることは明白だ。私はロイヤリスト(王室支持派)ではないが、国王は影響力のある地位にある。私たちはさまざまな層にこの問題の緊急性をアピールできる人が必要だ。コミュニケーションを一番上手く取れる人が行くべきだ」

トラス氏が首相官邸を去るのは時間の問題になってきた。トラス氏とその背後にいる狂信的リバタリアンたちは英国を文字通り、壊しつつある。彼らは英国だけでなく、世界にとっても有害であることはもはや覆い隠せなくなっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、アステラス製薬社員に懲役3年6月=報道

ビジネス

午前の日経平均は小反落、不透明感で主力株は売り買い

ビジネス

英中銀、バーゼル規則の実施一部2028年に延期 

ビジネス

リオ・ティント鉄鉱石生産、第2四半期として18年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 5
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 6
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 7
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story