コラム

G7は中国の「ワクチン一帯一路」に対抗できるのか

2021年02月20日(土)13時54分

ハンガリーのブダペストに到着した中国製の新型コロナワクチン(2月16日) Ministry of Foreign Affairs and Trade (KKM)/REUTERS

<東京五輪を開催する日本のコミットメントは支持で一致>

[ロンドン発]先進7カ国(G7)は2月19日、オンライン首脳会議を開き、初参加の菅義偉首相は今年夏の東京五輪・パラリンピックについて「人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として安全・安心の大会を実現したい」と訴え、G7首脳全員の賛同を得た。しかし、G7の焦点は途上国へのワクチン供給だった。

G7は昨年、「アメリカ第一主義」を掲げるドナルド・トランプ前大統領がホストだったが、コロナ危機と仏独の反対で中止に追い込まれた。今年はイギリスがホスト国で6月に保養地のコンウォールで開催予定だ。

この日はそれに先立ち、ワクチンの展開、地球温暖化対策、ミャンマーのクーデター、ロシアの反体制派アレクセイ・ナワリヌイ氏拘禁への対応を協議した。

同盟国やパートナー国、国際機関との関係修復を急ぐジョー・バイデン米大統領も初参加し、G7首脳声明では「民主的で開放的な経済と社会の強みと価値観を生かして今年を多国間主義へのターニングポイントにし、健康と繁栄を取り戻す」と宣言した。

首脳声明のポイントを見ておこう。


・世界保健機関(WHO)と協力し、自主的なライセンス供与などを通じてワクチンの製造能力を向上させる

・変異種のゲノム情報を共有する

・ワクチンの共同購入枠組み「COVAX」やACTアクセラレータへの資金協力を40億ドル(約4226億円)増やして総額75億ドル(約7923億円)に拡大

・G7はこの1年間、計6兆ドル(約634兆円)を超えるコロナ経済対策を実施

・パリ協定に従い2050年までに温暖化ガス排出量実質ゼロを目指しながら雇用を創出する

・東京五輪を開催するという日本のコミットメントを支持する

エゴ丸出しの「ワクチン・ナショナリズム」

ボリス・ジョンソン英首相はこの日、ミュンヘン安全保障会議にもオンラインで参加し「中国による新疆ウイグル自治区弾圧に反対する。英企業のサプライチェーンが人権侵害に加担しないよう対策を導入した。香港国家安全維持法の強行に対抗して香港市民300万人に英市民権獲得の道を開いた」と力を込めた。

バイデン大統領も同会議で「国際経済システムの基盤を弱体化させる中国の経済的虐待と強制に反対しなければならない」と訴えた。

バイデン政権の発足に伴い、西側は一日も早く結束を中国やロシアに示す必要があった。しかし、ワクチン供給を巡って欧州連合(EU)が域外への輸出制限を強行し、イギリスとの対立を深めるなど「ワクチン・ナショナリズム」が渦巻いている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブタペスト、米・ロ・ウ3者会談の開催地か ホワイト

ワールド

首都ワシントン州兵派遣、共和党6州が1100人 ト

ワールド

米政権、インテル株取得検討を確認 出資は「経営安定

ワールド

プーチン氏が「取引望まない可能性も」とトランプ氏、
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル」を建設中の国は?
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story