コラム

米大統領選、民主党の牙城「労働組合」がトランプ支持を強め、保守化するワケ...日本企業には大打撃が

2024年07月31日(水)17時28分
アメリカ第一主義を掲げるトランプ

MARCO BELLO-REUTERS

<アメリカで強い政治力を持ってきた労働組合に地殻変動が。自国第一主義になびき、共和党との距離がかつてないほど縮まっている>

トランプ前大統領の暗殺未遂事件やバイデン大統領の選挙戦撤退などを受けて、トランプ氏が大統領に返り咲く可能性が高まっている。こうしたなか、アメリカ政界の水面下では驚くべき事態が進行している。

従来、民主党の牙城と思われていた労働組合に地殻変動が発生しており、トランプ支持を検討する組合が増加。民主党支持の組合も、保守的傾向を強めており、トヨタ自動車などアメリカ市場でビジネスを行ってきた外資系企業には逆風が吹き始めている。


アメリカ最大規模の労働組合「全米トラック運転手組合(通称チームスターズ)」のショーン・オブライエン会長は、7月に行われた共和党全国大会に出席。候補者指名を受けたトランプ氏に対して最大限の賛辞を贈った。

トランプ氏は外国製品の輸入に高関税をかけることを公約に掲げており、副大統領候補のバンス氏は、グローバル主義の象徴とされる巨大テクノロジー企業の解体を主張するなど、自国第一主義を前面に打ち出して選挙戦に臨んでいる。

同組合はトラック運転手を中心に全米で130万人もの組合員を抱えており、選挙戦への影響は絶大だ。最終的にはどの候補者も指名しないという選択を行う可能性もあるが、ここまで共和党との距離が縮まったのは前代未聞といえる。

労働組合とトランプ氏には利害が一致する部分が

企業寄りの政党である共和党と労働組合は利害が一致しないことが多く、両者の親和性は高くなかった。多くの組合は民主党支持であり、民主党にとっても組合は最大の支持基盤の1つとなってきた。だが近年は、グローバリゼーションを否定し、自国の利益を守るという点で労働組合とトランプ氏には利害が一致する部分が増えている。

もっとも、似たような動きは民主党内でも活発になっている。アメリカ最強労組の1つである全米自動車労働組合(UAW)は、基本的に民主党支持だが、これまで組合が存在しなかったトヨタなど外資系企業にも組合を拡大させることについてバイデン政権と合意している。

実際、多くの外資系企業で組合設立の動きが活発になっており、この動きが全米に拡大した場合、組合がないことで賃金を安く抑えてきた日本メーカーにとって大打撃となる。

1960年代、チームスターズは絶大な政治力を持ち、組合員から集めた年金運用資金をラスベガスのカジノに融資するなどマフィアとの癒着すら指摘されたことがある。UAWも時に激しいストを行うことで知られており、アメリカ国内では労働組合に対して怖いというイメージを持つ人が少なからず存在している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措

ビジネス

26年半ばの金目標価格4500ドル、300ドル引き

ワールド

ユニセフ、ジュネーブとNYの雇用7割移転へ 経費削
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story