コラム

ついにリセッションがやって来る...意図的にもたらされる「不景気」に備えよ

2022年11月15日(火)17時18分
米FRBのパウエル議長

AP/AFLO

<インフレ対策の結果、世界経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性は高い。アメリカがくしゃみをすれば風邪をひく日本も当然、他人事ではない>

アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)が大幅な利上げ継続を決断したことで、世界経済がリセッション(景気後退)に陥る可能性が高まってきた。もしそのような事態となれば、日本経済への影響も極めて大きなものとなるだろう。

アメリカや欧州では10%近いインフレが続いており、各国にとってインフレ抑制は最優先課題となっている。FRBは経済学のセオリーに従い、金利を引き上げて物価を抑制しようと試みている。金利を上げれば、企業は銀行からお金を借りにくくなり、景気にとって逆風となる。インフレ抑制とは、意図的に不景気にして物価を抑えることと同義であり、インフレ抑制に成功すれば、当然の結果として景気は悪くなる。

現在、アメリカの政策金利は4%に達しており、FRBは金利の上昇幅を縮小させる可能性は示唆したものの、金利そのものについては、さらに高い水準までの引き上げを示唆している。短期金利である政策金利が4%台となった今、長期金利が4%台ということはあり得ないので、市場では長期金利が5~6%台に上昇する可能性について議論され始めている。

アメリカの産業界や議会は景気悪化を懸念し、FRBに対して金利の引き上げをやめるよう圧力をかけている。もしFRBがこれを受け入れず、予定どおり金利の引き上げを進めた場合、インフレは収まる一方、リセッションに陥る可能性は格段に高まる。アメリカがくしゃみをすれば、日本が風邪を引くというのはよく知られた事実であり、来年の日本経済は相当な覚悟が必要となるかもしれない。

従来の経済危機よりも対応は難しい

これまでの時代とは異なり、今回、予想されている景気後退は非常に厄介である。景気が後退した場合、通常は大型の財政出動を実施するのがセオリーである。だが、慢性的な品不足と高コスト状態が続くなか、需要を拡大する政策を行えば、せっかく利上げで沈静化させたインフレを再発させてしまう危険性がある。

金利の引き上げでインフレが収まったとしても、物価上昇がこれ以上、進むことを回避できただけであり、高くなった物価が元に戻るわけではない。つまり当分の間、高コストと供給制限が続くと考えたほうがよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story