コラム

年金の基礎知識と、受給額が激減するシビアな未来を生き抜くヒント

2019年10月29日(火)12時39分

そもそも日本の年金制度は老後の生活を完全にカバーできるものではない YAGI-STUDIO/ISTOCKPHOTO

<一部の富裕層以外は定年後も働くしかない。生活水準の維持に不可欠なのは、今から「後半戦」キャリアを意識すること>

年金2000万円問題をきっかけに、公的年金への関心がこれまでになく高まっている。だが、公的年金の仕組みは複雑なので「正直なところ年金の話はよく分からない」という人が多いのではないだろうか。以下では、公的年金の仕組みや年金減額の見通し、世代間格差の現実について可能な限り分かりやすく説明する。

日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金(公務員共済等含む)の2階建てになっている。国民年金は全員が加入することになっており、サラリーマンは、これに加えて厚生年金にも加入する。国民年金と厚生年金では、保険料の徴収や年金の支払い基準が異なるので、まずは両者の違いについて知っておくことが重要だ。

国民年金は毎月一定額の保険料を支払い、支給開始年齢(現在は65歳)に達したときから、毎月一定額の年金を受け取る仕組みである。一定額を支払って一定額を受け取るので、シンプルで分かりやすいルールと言ってよいだろう。現時点における国民年金の月額保険料は約1万6500円で、受け取る年金の額は約6万5000円。つまり、毎月、1万6500円を40年間支払っていれば、月額6万5000円の年金を受け取れる。

一方、厚生年金の保険料や年金の給付額は収入によって変わってくる。

厚生年金は、年齢によっても異なるが、大ざっぱに言うと、現役時代の平均年収が約530万円(モデル世帯の年収を流用)だった場合、国民年金と合算した月額給付額は現時点で約15万5000円となる。内訳は国民年金が一定額の6万5000円で、年収に応じて支払われる厚生年金が9万円である。

年収530万円ということは月収約44万円だが、この収入に対して毎月徴収される保険料は約8万円である。もっとも会社員の場合には、保険料の半分を会社が負担してくれるので、自己負担分は約4万円で済む。つまり個人ベースで見れば、4万円の保険料を40年間支払っていれば、毎月15万5000円の年金がもらえる計算になる。

今後も段階的削減は続く

この数字だけを見ると、意外と多いと感じたかもしれないが、ここにはカラクリがあるので注意が必要だ。

まず、年金の計算で使われる年収というのは、厚生年金加入期間全体の平均年収であって、個人の退職時の年収を示したものではない。日本企業の多くは年功序列の給与体系なので、若いときの年収は低い。退職時に800万円くらいの年収がなければ、40年間の平均年収は530万円にはならないと考えたほうがよいだろう(将来、年功序列の賃金が崩れれば平均年収はさらに低くなる)。

また政府の説明には、多くの人にとってなじみのある額面収入ではなく、どういうわけか、税金や保険料などを差し引いた手取り年収が使われている。従って、現役世代の平均年収に対する年金受け取り開始時の年金額の比率を示す「所得代替率」についても、「額面どおり」には受け取らないほうがよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、現時点でインフレ抑制に利上げ必要ない=クリ

ビジネス

テスラ株主、マスク氏への8780億ドル報酬計画承認

ワールド

スウェーデンの主要空港、ドローン目撃受け一時閉鎖

ビジネス

再送米国のインフレ高止まり、追加利下げに慎重=クリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story