コラム

値上げに踏み切った鳥貴族が直面する「600店舗の壁」とは?

2017年09月26日(火)11時45分

実は、同社は2017年7月期の業績について、約100店舗を新規出店し、売上高、経常利益とも約25%増加させるという強気の見通しを立てていた。だが現実の売上高は約2割の増加にとどまり、利益に至ってはマイナスになってしまった。出店が予定通りにいかなかったという現実は、店舗数が増えたことによって、従来と同じペースの出店が難しくなってきた可能性を示唆している。

実は居酒屋の業界には店舗数が600店舗付近に大きな壁が存在しており、この壁を乗り越えることは実はそう容易ではないのだ。

居酒屋の業界に立ちはだかる600店舗の壁

鳥貴族の躍進が話題になる以前、勢いがある居酒屋チェーンといえば「ワタミ」であった。ワタミは現在の鳥貴族と同様、ハイペースで業容を拡大してきたが、2014年を境に業績が悪化した。2014年と言えば、同社の店舗数が過去最大の約650店舗になった年である。

ワタミはもともと居酒屋チェーン「つぼ八」のフランチャイズとして事業をスタートしているが、つぼ八も、かつては破竹の勢いで全国展開し、ピーク時には600近い店舗を構えていた。しかし現在ではワタミに完全に追い抜かれ、280店舗と規模の小さい展開を余儀なくされている。

つぼ八も、そこから派生したワタミも600店舗あたりを境に業績がピークを迎えている。鳥貴族の店舗数は現在560店舗となっており、そろそろ600店舗に近づこうとしている。同社は2022年に1000店舗の展開を目指しており、2018年3月期についても80店舗を新規開店するとしている。

同社の2018年3月期における業績予想は売上高370億円、営業利益は24億円とかなり強気だ。出店がスムーズに進み、1店舗あたりの売上高もさらに拡大するというシナリオである。少々、楽観的な予想であることは否定できないが、もしこの数字を達成できれば、600店舗のカベを超え、もう一段の成長が見込めるかもしれない。

一方、来期の業績が減益になるようなら、拡大シナリオそのものに疑問符が付くことにもなりかねない。低価格をウリにした焼鳥チェーンから、メジャーな外食産業に脱皮できるのか、同社の真価が問われている。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story