コラム

ロシアの軍事的挑発と脆弱な経済──プーチン政権カウントダウン

2019年04月13日(土)13時30分

プーチンの経済政策「プーチノミクス」は、「天然資源収益を国家の手に集中し、計画的に投資に向ける」という、彼の97年の博士論文そのもの。大統領就任後は石油・天然ガス部門を国家の手に集中したが、肝心の投資について青写真が描き切れていない。ビジネスを運営できるスタッフが不足するなど、近代化の条件を欠いているからだ。

GDPは14年のクリミア併合で欧米の制裁を招いて以降、実質マイナス成長が続いた。17年にやっとプラスに回復したが、統計操作が疑われるなど、停滞は明らかだ。政府は中国に倣って、地方の道路網整備などインフラ投資で成長を実現しようとしている。だが独占体質の強いロシア経済では、資材価格の高騰とインフレを招くだけだろう。

プーチノミクスは賞味期限が来たようだ。遠いベネズエラで、アメリカと子供じみた力比べをしている余裕はない。4月21日のウクライナ大統領選の決選投票で政権が代われば、クリミア問題で落としどころを探る好機ともなるだろう。日本との北方領土問題も含めて欧米との関係を改善し、第4次産業革命に邁進しなければならない。

ソ連時代は赤く輝いていたロシアという巨星はこのまま輝きを失って、小さな「白色矮星(わいせい)」の姿をさらすのか。いやその前に、アメリカとの核戦争という「超新星爆発」を試みて消滅するのか。そのようなことは起きてほしくない。

<本誌2019年04月16日号掲載>

20190416cover-200.jpg

※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story