コラム

イギリスが目を背ける移民とイスラム過激派の「不都合な真実」

2021年10月30日(土)17時00分

テロをイスラム系移民(主にリビア、イラク、パキスタンやモロッコなど「特定の国」の出身者)と結びつけて単純化する心理は理解できる。だが現実はもっとずっと複雑で懸念すべきものだ。

テロリストの中にはイギリスにやって来たばかりの亡命希望者もいるが、英国市民としてこの国で生まれ育った移民2世もいる。イスラム過激主義に改宗した非イスラム諸国の出身者の場合もある(2001年の靴爆弾のテロリストみたいに、時には白人英国人の場合も)。驚くほど多くが刑務所で受刑中に過激思想に染まっているが、大学で過激化した者もいる。仕事も将来の希望もない者もいれば、立派な仕事に就いている者もいる(2007年のテロ未遂事件の容疑者にはNHSの医師も含まれていた)。イスラム過激派テロリストの経歴は1つのパターンに収まるものではなく、それが問題の解決をより複雑にしているのだ。

もちろん国は、「何もしていない」わけではない。テロ分子の監視にはかなりの資源をさいている。2017年のテロ事件以降には7件の「重大な計画」を阻止したと当局は明らかにしているが、そうはいっても監視や阻止に成功したのはほんの氷山の一角であることを示しただけで、安心の成果とは言い難い。

単独で行動し、既に監視下にある過激主義者と直接接触するのではなくインターネット経由で過激主義に染まる、いわゆる一匹狼型の攻撃の場合には、監視もあまり効果がない。

若者などが過激主義に走るのを阻止するための「プリベント(防止)」と呼ばれる政府のプログラムもあり、そこでは過激化するリスクのある者が、主にリベラルなイスラム教徒によるカウンセリングを受けることになっている。だがこれまでに起こった数々のテロ事件では、こうした再教育プログラムの受講者が、思想を矯正できないまま事件を起こしていたことが明らかになっている(エイメス議員殺害の容疑者もそうだった)。

事件の後にはいつも、なぜ状況を変えることができないのだろうという大局的な議論が起こる。でも、僕たちは社会として影響を受けている。テロ対策はカネがかかるし、それに資源を取られれば当然ながら組織犯罪対策や違法薬物取引対策など別の分野の資金が減ることになる。国会議事堂やヒースロー空港などの一部の場所は、重武装の警官が配置された堅牢な要塞のようになっている。エイメス議員が地元有権者との懇談「サージェリー」の最中に襲撃されたことで、健全なる民主主義の柱とも言える議員と有権者との対面の機会を制限しなければならなくなるのではないか、との危機感も広がっている。

当然ながら、移民の大半は平和的で法を順守する人々だし、イスラム教は殺人をしてはならないと説いていると認識することは重要だ。だが同時に、イギリスはイスラム過激派の問題を抱えており、移民は恩恵だけでなく問題も国に持ち込むこと、そして現在の対処法では命や生活への脅威を減らすことが精いっぱいで、今後もさらなる攻撃が起こるだろう、という明白な事実から、目を背けないこともまた重要だ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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