コラム

欧米との協力関係の陰に潜む、インドのネット世論操作の実態とは?

2023年10月16日(月)17時00分

海外からはグーグルがAndroidのGooglePayでUPIを利用できるようにして多くの利用者を獲得し、ウォルマート系のPhonePeも多く利用されている。

社会のDX化が進んでいる一方、広範な個人情報が一元管理される可能性が拡大している。UPIは海外にシンガポール、タイ、UAE、日本に広がる動きを見せている。国境を越えた送金や決済が楽になる一方、インドに接続先の国の利用情報が流れる。

世界各国にインドからの移民が多数暮らしている

インドは世界各国に多数のディアスポラがいる。インドの政権与党であるBJPは海外支部Overseas Friends of the BJP (OFBJP)を世界各地に46持っており、選挙の際には選挙資金のおよそ50%が海外からの献金となっている。2018年にはディアスポラから800億ドル(約12兆円)がインドに送られるほどの規模となっている。

インド国内の差別と暴力は国外にも広がっている。世界各国にインドからの移民が多数暮らしているが、モディが首相になり、インド政権が右派過激主義のHindutvaになってから海外にもそれが波及した。海外で反政権などの活動が広がることを懸念したRSSはディアスポラの多い国での監視活動や脅迫などを行っている。ディアスポラの多いアメリカには200以上のRSSの支部がある。ディアスポラの間での亀裂も広がり、特にイスラム教徒への攻撃や、カースト上位の者から下位の者への攻撃が強まり、Hindutvaを批判するディアスポラに対しての脅迫行為も激しくなっている。

イギリスでは2022年にヒンドゥー教徒の集団がイスラム教徒やシーク教徒を襲撃する事件起きた、オーストラリアでも襲撃事件が起き、世界各国のインドのディアスポラの間で亀裂と暴力が広がっている。

中国とのバランス上、表に出にくいインドの実態

インドは中国やロシアとは違い、欧米の重要なパートナーとみなされている。多少の懸念をいだきながらも欧米は中国への対抗上、インドと手を組まざるを得ない。そして、「民主主義」を掲げている限り、インドが行っている差別や世論操作には表だった批判はできない。

欧米から与えられた免罪符を活用してインドは、ネット世論操作や差別を行い、世界に広がったディアスポラの活用を進める、実態が公にされることなく。特にネット世論操作に関しては、あれほど大規模でインドの組織が関与していることまでわかっていても、インド政府に関連づけられることはない。さらに欧米の関係機関の調査対象は中国、ロシア、イランに集中している。

インドの独裁化が進んだ場合、欧米が取る選択肢は大きく2つあるだろう。ひとつは、欧米が「民主主義」という看板を事実上反古にして(おそらく形式上は残す)、権威主義グループになる選択肢で可能性は高い。もうひとつは民主主義を捨てずにインドと距離を置く選択肢だ。後者の場合、欧米グループの衰退がさらに加速することになる。

日本は欧米ではないが、欧米のグループの一員であり、アメリカの選択に従うことになる。インドと距離を取る可能性がある以上、安易な接近は危険だ。アメリカは過去にも中国の民主化に期待し、結果として強力なライバルを育てることになったことがある。インドが同じようになる可能性は低くない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時500円高 米株高や円安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story