マクロスコープ:停戦はいつ?紛争から選挙まで「賭け」 予測市場が急拡大
2021年8月18日、スカイツリーから見た都内の景色。REUTERS/Marko Djurica
Yusuke Ogawa
[東京 17日 ロイター] - 選挙の勝敗から国際紛争の停戦時期、はたまたスポーツの試合結果や人気ドラマの展開まで――。世の中のあらゆる事象を取引の対象とする「予測市場」が、米国を中心に急成長を遂げている。前回の米大統領選を巡る「賭け」で一躍注目を集め、2025年の予測市場全体の取引額は400億ドル超に達したとの推計もある。
現状、日本では法規制の対象だが、将来の事業化の可能性を議論する会合が14日、東京都内で開催され、起業家や経済学者ら数十人が参加。会場は熱気に包まれた。
市場の仕組みは、二者択一の賭けに近い。特定の出来事が「起こる」か「起こらない」かの予想を購入する。価格は1-99セントの間で動くのが特徴で、ある選挙候補者が「当選する」の価格が1口60セントであれば、実現した際に1ドルで清算。購入者は40セント(手数料除く)の利益を得られる。当然、予想が外れたら、価値はゼロ。ただ、例えば80セントまで上がった時点で売却し、途中で利益を確定することも可能だ。
カジノとは異なり胴元は存在せず、あくまでもプラットフォームは取引の場を提供し、参加者同士が売買する。
数あるプラットフォームの中でも、米国のカルシとポリマーケットがとりわけ有名だ。カルシは米商品先物取引委員会(CFTC)の認可を受けて運営されている。マサチューセッツ工科大学(MIT)出身で、大手ヘッジファンドでの勤務経験を持つタレク・マンスール氏らによって18年に設立された。
一方のポリマーケットも、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)から出資を受けるなど、いずれも既存の金融業界との距離は近い。両社の企業評価額はすでに100億ドル規模に達しているという。
<機密漏洩に懸念も>
予測市場が脚光を浴びたのは、24年11月の米大統領選だ。大手メディアによる世論調査において、民主党候補のハリス氏と共和党候補のトランプ氏の接戦が示される中、予測市場は早くからトランプ氏の優勢を織り込み、結果的にほぼ的中させた。市場の価格は、多くの参加者の予想が反映されており、出来事の発生確率をおおむね意味する。
この特長により単なる投資サイトではなく、新たなメディアとしても存在感を高めており、取引対象はスポーツや芸能にとどまらず、政治から地政学的なテーマまで幅広く網羅する。最近では、「米国のベネズエラ侵攻によってマドゥロ大統領は失脚するか」「米国はイランをいつ攻撃するか」といった取引が世間の話題を集めた。
こうした取引は機密情報の漏洩や不正利用を誘発する恐れがあり、懸念の声も根強い。実際、イスラエル当局は、軍事作戦に関する情報を使ってポリマーケットで利益を得たとして予備役兵らを逮捕した。米議会では、政治家や政府高官による予測市場での取引を禁じる法案が提出されている。
トランプ氏長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏はカルシの顧問を務める傍らで、自身が参画するベンチャーキャピタルを通じてポリマーケットに出資をしている。
<元法務大臣が出席>
日本では予測市場の運営はもちろん、海外の合法サービスであっても国内からの利用は刑法の賭博規制などに抵触する恐れがある。だが、米国での盛り上がりを受けて、将来の事業化の可能性を議論する「予測市場サミット」(主催は投資リサーチ会社のタネ)が先週末に開かれ、起業家やエンジニア、経済学者ら数十人が参加した。
登壇した慶応義塾大の坂井豊貴教授(経済学)は「予測市場は人類にとって、民主主義や資本主義と並ぶ画期的なイノベーションだ」と指摘。元法務大臣で弁護士の牧原秀樹氏は「予測市場はきっと社会的意義が発見されると思う。まだ世界的に評価が定まっていない段階だが、日本が理論的に後押しをしていくべきだ」と訴えた。
当面は、ポイントなどを活用した形でのサービス開始が想定されそうだ。会合では、合法化に向けて推進団体を設立するアイデアが出された。企業経営への応用も期待されており、米フォード・モーターは社内に予測市場を開設。従業員にインセンティブを付与して販売台数予想を匿名で取引させたところ、従来より精度の高い結果が得られたという。
トヨタ自動車グループの横断組織「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」の上野直彦氏は「上司の顔色をうかがって予測数字を変えるなどの、社内のバイアスを排除できる。今後、大手製造業で広がるのではないか」との見方を示した。
(小川悠介 編集:橋本浩)





