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マクロスコープ:自信深める高市氏、市場も歯止め役とならず 党との溝に懸念も

2026年02月26日(木)11時57分

写真は2月20日、国会で所信表明演説を行う高市早苗首相。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東‌京 26日 ロイター] - 高市早苗首相(自民党総裁)が政権運営に自信を‌深めているようだ。先の衆院選で得た圧倒的な支持を背景に、国会審議でも政策実現​に向けた意欲を強調する場面が目立つ。「唯一のストッパー」と言われたマーケットが比較的落ち着きを取り戻す中、複数の政府関係者は「高市氏を止⁠めるものがない状況だ」と述べた。一方、こ​うした現状は高市氏の孤立を招きかねないとの声もある。特に懸念されているのは「身内」である自民党との関係だ。

<「雰囲気、明るくなった」>

「熟議の後に決めるべきときは決めなければならない。それが民主主義のルールだと考えている」。施政方針演説に対する25日の参院代表質問で、高市氏は自民議員の質問にこう答えた。いざとなれば数の力がある、と参院自民に対して釘を刺したとも受け取れる発言だ。首相就任⁠直後に臨んだ昨年の臨時国会で、立憲民主党に対してすら「協力できるところはしっかりと協力しなければいけない」と述べていた姿とは一線を画す。

衆参両院で少数与党だった自民を取り巻く状況は、今月8日投開票の衆院選⁠で一変し​た。自民単独で衆院の3分の2以上を占め、参院で否決された法案も再可決が可能となったからだ。参院では依然として少数与党ではあるものの、「再可決」という強力なカードの存在は大きい。

「野党の主張にいちいち迎合する必要がなくなり、色々なことを決めやすくなった。党内の雰囲気も明るくなった」と、ある自民の衆院議員はロイターの取材に話した。別の衆院議員も「憲法改正だって実現できるかもしれない」と述べ、これまで大きな動きを見せてこなかった懸案の進展にも期待感をにじませた。

<「市場は落ち着いているじゃない」>

高市氏の「自信」が端的に表れたのが、25日に⁠内示された日銀の審議委員人事だ。財務省や日銀に「一切相談せず」(政府関係者)、自身が掲げる積‌極財政政策に親和性があるリフレ派2人を選出。経済官庁関係者は「過度な積極財政論者として警戒されていた人物も含まれている。⁠わかりや⁠すい『高市人事』だ」と語った。

高市氏はこれまで、マーケットの信認を重視する姿勢を随所でアピールしてきた。昨年の首相就任直後、「責任ある積極財政」の実行による先行き不安から、金利上昇と円安を招いた記憶があるからだ。国民生活に大きな影響を及ぼせば、政権の足元が揺るぎかねないとの危機感もあった。昨年末に編成した補正予算で、新規国債発行額を30兆円以下に抑え、公債依存度を25年度当初予算よりも低くすることにこだわ‌ったのも高市氏だ。

一方、前出の政府関係者は高市氏の衆院選後の「変化」を明かす。首相官邸で行われる打ち​合わせで省庁‌幹部から意に沿わない提案があると、「でも市場⁠は落ち着いているじゃない」と取り合わない場面もあ​るという。同関係者は「高市氏には、これまで官僚や財政規律派のエコノミストに過度な危機感をあおられていたとの思いがあるようだ。ここ最近は、彼らの言うことを聞かなくてもマーケットは荒れないと考え始めている」と述べた。

<「一度失敗しないと」>

ただ、こうした強気な姿勢は弊害を生みかねないとの指摘が出ている。一つは3月19日に予定する高市氏の訪米だ。この日、日本では日銀の金融政策決定会合が開かれる。利上げ見送りが織り込まれつつあるとは言え、為替市‌場の動向は見通せない。関係省庁の間には、2月16日に行われた日銀の植田和男総裁との会談で、高市氏が追加利上げに慎重な姿勢を伝えたとの憶測が広がったこともあり、前出の関係者は「円安進行の中で日米首脳会談に臨むような​ことになれば、米国から何を言われるかわからない」と語った。

加えて、「⁠身内」である自民党との間に隙間風が吹き始めたとの声もある。来年度当初予算の年度内成立は、引き続き高市氏の強い希望に沿う形で実現に向けた検討が進む。一方で、国会での十分な審議を経た予算成立を想定する財政民主主義の観点から、党内からも「年度内はあまりに無理​筋だ。高市氏は党の意見を聞いてくれない」(関係者)と疑問視する声は消えていない。

「高市旋風」で当選を果たした衆院議員の一部で広がる楽観論の陰で、党関係者は「高市氏は何でも自分の決定じゃないと気が済まないようだが、課題山積の日本でそれはよほどの天才でも難しい」と指摘。別の党関係者も高市氏の今後を案じた。「一度失敗しないとわからないのかもしれない」

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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