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アングル:メキシコ麻薬密売組織の指導者殺害、大統領の最大の賭けに

2026年02月24日(火)18時44分

写真はシェインバウム大統領。2月23日、メキシコ市内で撮影。REUTERS/Raquel Cunha

Laura ‌Gottesdiener Emily Green

[メキシコ市 23日 ロイター] - メキシコ軍が22日に国内最大の‌麻薬密売組織「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」の指導者で、指名手配中だったネメシオ・オセ​ゲラ容疑者を殺害したことは、麻薬密売組織を摘発するシェインバウム大統領の最大の賭けとなった。

米当局は、「エル・メンチョ」の異名で持ったオセゲラ容疑者に1500万ドルの懸賞⁠金をかけて指名手配していた。これまで逮捕を逃​れ続けてきたことから、ほぼ手が届かない存在と見なされていた。22日の殺害は、メキシコでの麻薬密売組織との戦闘の転換点となる可能性がある。

メキシコに情報を提供して支援した米国は、シェインバウム氏に麻薬密売組織の取り締まりを強化するよう圧力をかけており、トランプ米大統領はメキシコへの軍事行動に乗り出す可能性を示唆してけん制してきた。

ホワイトハウスのレビット報道官は22日、トランプ政権として「作戦でのメキシコ軍との協力と成功を称賛す⁠るとともに感謝する」とコメントした。

だが、トランプ氏は23日に交流サイト(SNS)への投稿で「メキシコは麻薬密売組織と麻薬対策の取り締まりを強化すべきだ」と記し、シェインバウム氏にプレッシャーを掛けた。

シェインバウム氏は、米軍の地上部⁠隊を投入せず​に国内最強の麻薬密売組織に対する高度な作戦を遂行できることを米国に誇示することに成功した。しかし、メキシコ国内での麻薬密売組織による暴力活動が制御不能に陥った場合、シェインバウム氏の人気に影を落とすリスクもはらんでいる。

国際紛争のシンクタンク、国際危機グループ(ICG)のデビッド・モラ氏は「国内最強の犯罪組織に対抗することは非常に大きな賭けだった」とし、「リスクは極めて高い」と評した。

メキシコ大統領府はコメントの要請に応じなかった。

<前政権との決別>

オセゲラ容疑者の忠実な部下たちは22日、報復の波状攻撃を仕掛けた。このことは、広範かつ前例のないほどにCJNGの影響力が及んでいる実態を浮き彫りにした。

⁠メキシコ当局によると、CJNGは車両や店舗に放火し、メキシコ32州のうち20州の道路に計250カ所を超えるバリケード‌を仕掛けた。攻撃は米国との国境からグアテマラとの国境まで広がった。

23日午前までにバリケードの大部分が撤去されたものの、麻薬密売組織と⁠の血みどろ⁠の戦闘に疲弊した国民に恐怖を呼び覚ました。

シェインバウム氏にとっての政治的なリスクは特に深刻だ。与党の国家再生運動(MORENA)が2018年に政権を掌握した背景には、計数万人の死者・行方不明者を出した政府と麻薬密売組織の戦闘に対する国民の憤りが大きく作用した。

ロペス・オブラドール前大統領は「銃弾ではなく抱擁を」というスローガンを掲げ、社会プログラムを通じた貧困や暴力の根源的要因の解消を優先した。しかし、このアプローチがCJNGのような犯罪組織に縄張りを固めさせ、アボカド生産者‌への恐喝から燃料密輸計画に至るまで目まぐるしいほど多様な産業に影響力を広げさせる余地を与えたとの批判が出ている。

リス​ク分析会社、‌アレフのジェロニモ・モハール最高経営責任者⁠(CEO)は、シェインバウム氏が前政権の政治路線をおおむね踏襲して​きたものの、オセゲラ容疑者の殺害によって前政権の治安政策から明らかに決別したと指摘する。

<新たな戦闘?>

シェインバウム氏の就任後、殺人事件発生率が劇的に低下してきた。しかし、専門家らはオセゲラ容疑者の殺害を受けた暴力行為が阻みかねないことを懸念している。

メキシコの治安専門家、カルロス・ペレス・リカルト氏は、殺人率事件発生率が低下した一因としてCJNGが国内各地で支配力を強めていたことを挙げた。だが、オセゲラ容疑者殺害を受けてこの構造が崩壊する可能性がある。

一般的な麻薬密売組織とは異なり、CJNGは‌フランチャイズ方式で運営されている。ペレス・リカルト氏は、この構造がメキシコで広く展開されているコンビニエンスストア「オクソ」の店舗網のように、数十の小さなグループがCJNGの旗印の下で活動していると例示した。

元米麻薬取締局(DEA)捜査官で、​CJNGについて詳しいカルロス・オリボ氏はオセゲラ容疑者が消えたことで、CJNG傘下⁠の半自律的なグループの一部は組む相手を切り替える可能性があるとの見方を示す。

メキシコ軍は、悪名高い麻薬密売組織「シナロア・カルテル」に対する攻撃を1年にわたって展開してきた。

一方で、CJNGとも全面的な戦線を張るかどうかを決定しなければならない。メキシコ軍は北部シナロア州に数百人の兵士を派遣​しており、現地ではカナダ企業が運営する銀山で労働者10人の誘拐事件が1月に発生するなど暴力犯罪が続いている。

メキシコの麻薬密売組織の取り締まりに詳しい元北部統合任務部隊司令官のマシュー・スミス氏は、メキシコ軍がシナロア・カルテルとCJNGの両方に対する同時の本格的な軍事攻勢は困難だと断言。「メキシコ軍はシナロア・カルテルとの戦いだけでも地域を支配し、維持することができなかった。両方を相手にして支配・維持することは不可能だ」と強調した。

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