マクロスコープ:米関税判決、日本政府の対応縛る「思惑と警戒」 高市氏訪米控え
2月20日、ホワイトハウスで撮影。REUTERS/Elizabeth Frantz/File Photo
Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 24日 ロイター] - 米連邦最高裁判所がトランプ政権の国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする相互関税などを無効と判断したことを受け、日本政府は米国の出方をうかがっている。複数の日本政府関係者は、昨年の日米関税合意を日本側から見直す可能性を否定。対米投融資も引き続き作業を進める考えをロイターに明かした。日本政府が「様子見」を決め込む背景には、3月に予定される高市早苗首相の訪米を成功に導きたいとの思惑がにじむ。基幹産業である自動車業界への波及を警戒する声もある。
赤沢亮正経済産業相は日本時間23日夜、ラトニック米商務長官と電話で会談した。日本の関税に絡む扱いが昨年締結した日米合意より不利になることがないよう申し入れた上で、合意を引き続き「誠実かつ速やかに実施すること」を改めて確認。赤沢氏は24日の記者会見で「米側の新たな関税措置の影響について高い関心をもって注視している」とし、日米合意については「特別なパートナーである日米の相互利益の促進、経済安全保障の確保に向けた協力拡大、経済成長の促進につながるものだ」と強調した。
一方、赤沢氏は「現時点で米側の措置として明らかになっている上乗せ関税が仮に課せられた場合、昨年の日米合意に基づき(重複課税としない)ノースタッキングで15%とされていた一部品目で追加的な関税負担が生じ得る」との見方も明らかにした。
<日本が静観する二つの理由>
それでも複数の日本政府関係者は、日本から日米合意の見直しを求めることは「ない」と断言する。理由は大きく二つだ。
一つは、トランプ氏を刺激すれば更なる悪条件を突き付けられるかもしれないとの警戒感だ。トランプ氏が新たに各国に課すとしている一律関税15%は、先の日米合意が守られる前提に立てば同水準となり、関係者の1人は「税率が深掘りされるわけではない。影響は限定的だろう」と説明する。経済官庁幹部も日本側から米国に対してアクションを起こせば「トランプ氏が次に何を言い出すかわからない」と静観する姿勢を示した。
こうした見方の背景には、自動車産業への悪影響を避けたいとの考えがある。日本政府はこれまでの対米交渉で、特に自動車関税を重視してきた。今回の判決で無効とされた関税は自動車などに課せられる通商拡大法232条を根拠とする分野別関税とは異なる。そのため、日本政府としては今後の米国の対応が自動車関税に波及することを何よりも恐れているというわけだ。
基幹産業を死守したいとの思惑が米国への対応を縛っているとも言える。首相官邸幹部は「対応の方向性を判断するには時期尚早だ」と述べ、様子見が必要になるとの認識を示した。
<対米投融資への影響も限定的か>
もう一つの理由は、3月に予定する高市氏の訪米を成功させるためにトランプ氏との関係を良好に保ちたいとの思惑だ。高市氏はこれまで「トランプ大統領との信頼関係を一層強固なものとするとともに、安全保障・経済・文化などの分野で日米関係を強化していくことを確認したい」と訪米の成功に意欲を示している。日本周辺の安全保障環境や中国によるレアアース(希土類)輸出規制などに伴う経済安全保障などの観点からも、訪米の成功は日本政府にとって必達目標との位置づけだ。
こうした政府の姿勢から、対米投融資は予定通りに進むとの見方が大勢だ。もともと日本政府は「トランプ氏を怒らせないように」(財務省関係者)プロジェクトの組成を急ピッチで進めてきた。日米両政府は今月、「第1陣」となる三つの案件で合意。高市氏の訪米に向け、次の案件組成についても協議を進めている。前出の関係者は今回の関税無効判決が対米投融資に与える影響も否定した。「ここで米国とやり合って自動車関税に波及したり、高市訪米が失敗したりすればそれこそ大変なことになる」
日米は昨年、自動車など日本の輸出品に対する関税を15%へ引き下げる一方、日本が米国に対して5500億ドル(約85兆円)の投融資を実行することなどを盛り込んだ文書を発出。投融資は日本側の債権が完済されるまでは米側と現金収入を折半し、その後は日米が1対9の割合で配分するなどのスキームになっている。昨年10月には「日米間の投資に関する共同ファクトシート」を発表した。
<日本経済に好影響の可能性も>
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、「トランプ関税は世界の企業の活動に再び大きな不確実性を生じさせている」とする一方、「今回の判決は自動車、鉄鋼・アルミなど通商拡大法232条に基づく分野別関税は対象ではない。しかし、最高裁は議会の承認を経ずに大統領が関税を決めるのは、大統領の権限を超えたものであるとの考えを示している」と説明。「大統領令で実施した関税策は全てその違法性が問われることになり、今後は関税の合法性を問う訴訟がさらに増えていくのではないか」とした。
また、「最終的に相互関税に代わる恒久的な関税が実施されなければ、現状と比べて日本の実質国内総生産(GDP)は1年間で0.375%押し上げられる。自動車、鉄鋼・アルミなどの分野別関税もいずれ失効するとすれば、0.545%の押し上げ効果となる」と試算。「今回の混乱は短期的には不確実性を強めるものの、最終的には日本経済、企業にプラスとなる方向への変化だ」と指摘した。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)





