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特別リポート:トランプ氏の「報復」、少なくとも470の個人や機関が標的に

2025年11月27日(木)17時51分

 トランプ米大統領(写真)は2期目に入り、政敵を処罰するという選挙公約を統治の基本原則に変えた。11月9日、ワシントンのホワイトハウスで撮影。REUTERS/Annabelle Gordon

Peter Eisler Ned Parker Linda So Joseph Tanfani

[26日 ロイター] - トランプ米大統領は2期目に入り、政敵を処罰するという選挙公約を統治の基本原則に変えた。

「私はあなたの報復だ」という2023年の挑発的な選挙スローガンが、連邦政策や人事、法執行の再編を伴う広範な報復活動へと変化した。

ロイターの集計で、その規模が明からになった。トランプ氏が就任して以来、少なくとも470の個人や組織、機関が報復の対象となった。平均すると1日1件以上のペースだ。ここには外国の個人・機関・政府や、人員削減の一環として解雇された連邦職員は含まれていない。

ロイターの調査によると、トランプ氏の報復活動は個人的な恨みと文化的・政治的支配に対する欲求を融合させたものだ。トランプ政権は、20年の大統領選の結果を覆そうとした試みを捜査した検察官を解雇し、敵対的だと見なしたメディア組織に処罰を命じ、反対勢力と関係する法律事務所を罰し、彼の政策に異議を唱える公務員を排除するなど、行政権を駆使して政敵だと見なした人々を罰してきた。こうした行為の多くは法的な異議申し立てに直面している。

トランプ氏とその任命者は同時に「ウォーク(社会正義に目覚めた)」と見なした軍指導者を追放し、分裂的だとされた文化機関の資金を削減し、多様性の推進を掲げた大学に対する研究助成金を凍結するなど、政府を使ってイデオロギーを強制している。

ロイターはトランプ氏またはその部下が公に報復対象として名指しした全ての人物・機関と連絡を取り、数百件におよぶ公式命令、指令、公的記録を精査した。その結果、報復活動の最も包括的な実態が明らかになった。

分析によると、報復対象の人々と機関は大きく2つのグループに分けられる。

最初のグループは少なくとも247の人々・組織で、トランプ氏とその任命者によって公に名指しされたかあるいは後に政府のメモ、法的文書、その他の記録で特定された。特定の個人や組織を罰する意図があると示す証拠があった案件がこのグループに含まれる。ロイターの記者はそのうち150以上の人々・機関とインタビューまたは書面でやり取りした。

もう一方のグループの224人はより広範な報復の試みに巻き込まれており、個別に名指しされていないが、敵と見なされた集団に対する取り締まりに巻き込まれた。そのうち約100人はトランプ氏やその側近に関する事件を担当したか、または「ウォーク」と見なされたために解雇や退職に追い込まれた検察官やFBI捜査官だ。

報復は3つの明確な形を取った。

最も一般的なのは解雇、停職、捜査、セキュリティクリアランスの剥奪のような懲罰的な行為だ。ロイターの調査で少なくとも462件の事例を確認し、その中にはトランプ氏や政権に異議を唱えたり逆らったりした128人の連邦職員や政府高官の解雇が含まれる。

2番目は脅迫だ。トランプ氏と政権はニューヨークやシカゴのような民主党が主導する都市に対する連邦資金の凍結を含め、少なくとも46の人々、企業、その他の機関に捜査や制裁の脅しをかけた。

3番目の形は強要だ。少なくとも12件で、法律事務所や大学などの組織が、セキュリティクリアランスの剥奪や連邦資金・契約の喪失のような制裁の脅しを受けた後、多様性の推進やその他の方針を撤回することで政府と合意した。

この報復活動はトップ主導だ。ロイターの分析によると、トランプ氏のホワイトハウスは少なくとも36件の命令、大統領令、指示を発し、少なくとも100の人々や組織を懲罰対象としている。

ホワイトハウスは現在、政権が報復を行っているという見方を否定する。政敵に対する直近の捜査や起訴は政策の是正、違法行為の捜査、正当な政策イニシアチブだと説明している。

「この記事全体は選挙で得た権限を行使することが『報復』だという誤った前提に基づいている。それは違う」とホワイトハウスのアビゲイル・ジャクソン報道官は述べた。同報道官は、トランプ氏はバイデン前政権が「武器化」した司法制度を取り戻し「納税者の税金が党派的な目的に使われないようにする」という選挙公約を守っていると語った。

トランプ氏の行動は彼の熱心な支持者から歓迎されている。右派の論評者でトランプ氏の元顧問のスティーブ・バノン氏はロイターに、トランプ氏の政敵を罰するために政府権力を使うのは「全く報復でなく」、トランプ氏を標的にした不当な捜査に対して「人々に責任を取らせる」試みだと述べた。さらに「まだまだ続く」と言った。

トランプ氏の支持者は、バイデン前大統領が就任時に取った行動をやり玉に挙げる。トランプ氏の支持者が21年1月6日、選挙戦の敗北を覆そうとして米議会議事堂を襲撃した後、バイデン氏はトランプ氏の機密情報へのアクセス権限を取り消した。これは歴代大統領に対して初めての措置だった。バイデン氏はまた、連邦住宅金融庁のような固定された任期で勤務する独立機関で上院が人事を承認した理事を解任するための法廷闘争に勝ち、トランプ政権時代の任命者を無給の諮問委員会から多数排除した。

しかし、トランプ政権が敵と見なした人々を罰する取り組みの規模と体系的な性格は、米国統治の長年の慣例から大きく逸脱していると、ロイターがインタビューした13人の政治学者や法学者は指摘する。一部の歴史家は現代で完全ではないが最も近い類似例として、故ニクソン元大統領が政敵に対して行った復讐があると述べる。

「主な目的は権力の集中であり権力に対する抑制全ての破壊だ」と、ノーベル賞受賞経済学者でマサチューセッツ工科大学教授のダロン・アセモグル氏は述べた。

トランプ氏の標的となった数十人は自らに対する処罰が違法だと争っている。解雇や停職処分を受けた公務員は不当解雇を主張して行政上の不服申し立てや法的訴訟を起こしている。政権が機密契約の業務や連邦機関と関係を制限することで法的権限を超えたと主張し、法廷に訴えている法律事務所もある。こうした訴えのほとんどは今も係争中だ。

<トランプの敵を捜査>

政権は、トランプ氏の第1期中およびその後の不正疑惑を捜査した政府の法務・国家安全保障機関の高官を積極的に攻撃してきた。こうした機関はトランプ氏の不正疑惑を捜査する上で中核的な役割を担っていた。

少なくとも69人の現職・元高官が、ロシアの米大統領選に対する干渉について捜査したり警告を発したりしたために標的となった。

少なくとも58件の報復行為はトランプ氏が選挙運動の妨害者と見なした人物を標的にしている。

ロイターは現職・元米政府高官、法律事務所、州指導者から112件のセキュリティクリアランスが剥奪されたことを確認した。こうした資格は機密情報を扱う業務に必要だ。ギャバード国家情報長官は8月、37件のクリアランスを剥奪すると発表した。

国家情報長官室(ODNI)の報道官はロイターの問い合わせに対してX(旧ツイッター)にコメントを投稿し、ギャバード氏とトランプ氏が「政府が決して米国民の利益に反して利用されないようにするため」取り組んでいると述べた。

報復の取り組みは公務員制度にも深く及び、トランプ氏の政策に反対する職員を罰し、過去の政権で容認された異議申し立てを懲戒の理由に変えている。

米環境保護局(EPA)の数百人の職員が今年夏、公害防止や浄化計画の大幅縮小に抗議する公開書簡を書いた。それへの対応は迅速だった。署名した職員のうち100人以上が有給休職となり、少なくとも15人の幹部職員と試用期間中の職員が解雇を告げられた。残りは不正行為の調査対象とされ、少なくとも69件の無給停職につながった。多くは数週間職務から外された。

EPAは声明で、政権の政策を「違法に弱体化させ、妨害し、損なうために職員が自らの地位や肩書きを利用することに対しゼロ容認方針を取っている」と述べた。

連邦緊急事態管理局(FEMA)は約20人の職員が休職となり、数年前に導入された超党派の災害救援迅速化改革を撤廃するという決定を批判する書簡に署名したため不正行為の調査を受けている。

FEMAを傘下に抱える国土安全保障省はロイターに対する声明で「非効率と時代遅れのプロセス」を修正するために「新しいFEMA」を構築していると述べた。

連邦機関の指導者たちは多様性・公平性・包括性(DEI)に関する取り組みに関わる職員やトランスジェンダー問題に取り組む職員など、トランプ氏のMAGAアジェンダに沿わないと見なした職員を幅広く解雇してきた。

FBI職員のデビッド・マルティンスキー氏は、職場でプライド旗を掲げたためパテル長官に解雇されたと語った。彼はパテル氏に解雇された少なくとも50人の職員の一人だ。マルティンスキー氏は、憲法上の権利侵害を主張し、復職を求めてFBIと司法省を提訴した。司法省はまだ正式な回答を提出していない。

パテル氏は23年の著書「ガバメント・ギャングスター」で、トランプ氏に反対する「行政府のディープステート」のメンバーだとする60人の名前を挙げた。その中には民主党の元政府高官やトランプ氏の第1期に仕えたが最終的にたもとを分かった共和党員も含まれる。パテル氏は25年の議会の承認公聴会で「政敵リスト」だという指摘を否定した。

ロイターの調査では、パテル氏のリストに載った60人のうち少なくとも17人が、解雇やセキュリティクリアランス剥奪など何らかの報復を受けていることが判明した。FBIはコメント要請に応じなかった。

政権は民間部門の政敵と見なした者に対して財政的な制裁を活用している。少なくとも20余りの法律事務所が、トランプ氏に関する過去の事件に関係する人物を雇用または代理したために捜査や連邦契約の制限を受けた。8事務所は一段の措置を回避しようと合意を結んだ。

9のメディア組織が連邦捜査、訴訟、放送免許剥奪の脅し、ホワイトハウス行事へのアクセス制限に直面した。トランプ氏は自身が嫌う報道をするネットワークの放送免許を取り消すことも示唆した。

標的には大学も含まれる。トランプ氏とその支持者は大学を左翼急進派の牙城だと長年見なしてきた。

政権は大学に対する資金凍結や方針転換の強制について、米国教育の左傾化を逆転させるために必要な取り組みだと説明している。米教育省のハートマン報道官は「もしロイターが、入学時の能力主義の回復、男性の運動選手による女性タイトルの不正取得の是正、民権法の執行、そして納税者の資金が急進的なDEI計画に使われないようにすることを『報復』と見なすなら、われわれは全く異なった現実に生きている」と述べた。

<歴史的類似例:ニクソンの政敵リスト>

トランプ氏の報復活動がどこまで進むのか、あるいは最近の支持率低下の影響を受けるのかはもちろん予測できない。トランプ氏は生活費の高騰や性的虐待罪で起訴された後に死亡した富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する捜査がもたらす世論の不満に苦しんでいる。

ニクソン氏は1974年、ウォーターゲート事件で辞任した。この事件は大統領再選を目指した選挙運動に携わる側近が民主党本部に侵入し、大統領自身がその隠ぺいを指示した。ニクソン氏は在任中、500人以上の政敵リストを保持していた。しかし、歴史家によれば、トランプ氏が報復活動を公然と実行しているのに対し、ニクソン氏の政敵リストは秘密の道具として構想されていた。

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