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アングル:利上げ到達点予想、新政権にらみ高止まり 長期金利下げ渋り要因に

2025年10月21日(火)16時09分

 円債市場で長期金利の高止まりが続いている。写真は2013年2月、都内で撮影(2025年 ロイター/Shohei Miyano)

Mariko Sakaguchi

[東京 21日 ロイター] - 円債市場で長期金利の高止まりが続いている。高市早苗新政権の発足をにらみ、早期の日銀利上げ観測は後退したままだが、ターミナルレート(利上げの最終到達点)の予想に大きな変化がみられないからだ。円安進行に伴う期待インフレの高止まりがターミナルレート予想の下支え要因となっており、超長期ゾーンの金利上昇が一服する中で、政策金利の影響を受けやすい長期金利は下げ渋る展開が続くとの見方が出ている。

<ターミナルレートの高止まり続く>

高市自民党総裁の選出後、新発10年債利回り(長期金利)は一時1.700%と2008年7月以来の高水準を更新。その後も、1.6%台後半と17年ぶりの高水準での推移が続いている。

ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は「ターミナルレート予想まで政策金利が引き上がる可能性を市場は織り込んでいるのではないか」と指摘する。

福本氏は、9月に利上げを提案した田村直樹・高田創日銀審議委員の主張は共通して「今のインフレ水準に対して現行の金利水準は低い。中立金利に近づけていかないと日本の物価が高止まることを懸念している」とし、「日銀は淡々と利上げを実施していくと市場は解釈している」との見方を示す。

高市新総裁が4日の記者会見で、金融政策の責任を持つのは政府だとの認識を示したことをきっかけに、市場では一時7割近くまで織り込みが進んでいた10月会合での日銀の利上げ観測は2割強まで後退した。ただ、ターミナルレートはむしろ高止まりが続いており、日銀のインフレ対応が遅れるとの警戒感が市場で強まっていることが示唆される。

オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)の2年先1カ月フォワード金利によると、自民党総裁選での高市氏勝利前のターミナルレートは1.25%付近。その後、公明党による連立離脱や米中貿易摩擦懸念を背景に一時1.15%付近まで小幅に低下したが、足元では1.2%台に再び上昇している。

<円安進行で期待インフレ率は2014年以来の高水準>

ターミナルレート予想の高止まりの背景には「円安進行を背景に、インフレが高止まる期間が延びるという見方が維持されているようだ」(国内証券ストラテジスト)という。10月に入り、ドル/円は一時153円前半まで上昇した後、足元では151円半ばで推移している。

SMBC日興証券の金利・為替ストラテジスト、丸山凜途氏は「(前年比での円安進行で)今後輸入物価が上昇していく可能性があり、消費者物価指数(CPI)が跳ね上がる圧力に効いてくる」と指摘、「円安が進行したことで、期待インフレ率が引き上がっている」との見方を示す。日本維新の会との連立合意で高市政権が発足する見通しとなった20日にも、日経平均株価が最高値を更新、円安が進む場面があった。

ロンドン証券取引所グループ・リフィニティブのデータによると、期待インフレ率を示す指標である10年債のブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は、一時1.6635%と、ヒストリカルデータが確認できる2014年以降で最大の水準を付けた後も、1.5%台で高止まりしている。

<長期金利の先行き、インフレ動向が鍵>

警戒されていた新政権による財政政策は「麻生氏が自民党副総裁に就任したことで、高市氏の暴走を止めるのではないかという期待がある」(アセマネのファンドマネジャー)とされ、財政出動規模が想定よりも小さくなるとの見方が市場では広がっている。このため、超長期ゾーンを起点とした金利上昇圧力は和らいでいる。

一方「期待インフレの高止まりが続けば、政策金利期待の影響を強く受けやすい長期金利は下げ渋る、もしくは上振れの可能性が意識される」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、鶴田啓介氏はみる。

円安の一段の進行などをきっかけに市場の思惑が強まれば、ターミナルレートが1.5%に到達する可能性が出てくる。そうなれば、新発10年債利回りは2%が視野に入ってくる。

ただ、米国など世界的にインフレが鈍化傾向にあることや、米関税政策を発端とした欧米や中国の景気減速への警戒感は根強い。「日本だけがどんどんインフレが高進することはメインシナリオとは見ておらず、この半年内でターミナルレートが1.5%に切り上がっていくとはみていない」(国内銀の運用担当)との見方が優勢だ。

りそなホールディングスのエコノミスト、佐藤芳郎氏は「食品とエネルギーを除く欧米型のコアインフレは1%半ばで膠着状態になっている」と指摘。足元の食料品価格の上昇など一時的な要因が剥落してくれば、期待インフレの低下につながり、ターミナルレートも落ち着いてくるとみている。

(坂口茉莉子 編集:平田紀之 石田仁志)

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