ニュース速報
ワールド

アングル:カジノ産業に賭けるスリランカ、統合型リゾートで中印の富裕層狙う

2025年08月30日(土)13時31分

8月26日、スリランカは長年にわたり、手つかずの自然が残るビーチや野生動物が見られるサファリ、古代仏教遺跡が観光の目玉だった。写真はコロンボのシティ・オブ・ドリームズで25日撮影(2025年 ロイター/Thilina Kaluthotage)

Uditha Jayasinghe

[コロンボ 26日 ロイター] - スリランカは長年にわたり、手つかずの自然が残るビーチや野生動物が見られるサファリ、古代仏教遺跡が観光の目玉だった。しかし、マルクス主義の流れをくむ同国初の大統領となったディサナヤカ氏は、カジノ産業を興してインドや中国からの富裕層を呼び込み、外貨流入の新たな波を起こそうと賭けに出ている。

カジノ戦略の成功は9月に大統領就任から1年を迎えるディサナヤカ氏にとって極めて重要な意味を持つ。スリランカは2022年と23年に経済崩壊に見舞われ、ディサナヤカ氏は一般市民の生活を改善すると公約している。

スリランカにはこれまでに小規模なカジノはいくつか存在していたが、今月上旬には最大都市コロンボで12億ドル規模に達する統合型カジノリゾート「シティ・オブ・ドリームス」がオープンした。

シティ・オブ・ドリームスは国内最大の財閥ジョン・キールズ・ホールディングスとマカオを拠点とするメルコ・リゾーツ&エンターテインメントによる合弁事業で、統合型の開業は南アジアで初めてとなった。開業イベントではボリウッドの人気俳優リティク・ローシャンさんが満員の観客の前でヒンディー語のヒット曲に合わせて踊り、話題をさらった。

ディサナヤカ氏はカジノなどのギャンブルを規制する法律も議会で成立させており、カジノ産業に大きな期待を寄せていることが読み取れる。

ラナシンハ観光副大臣はロイターの取材に対し、こうした取り組みは今年の観光客数を前年比50%増の300万人とし、観光収入を昨年の37億ドルから50億ドルへ押し上げるという目標の一環だと説明。「観光はわれわれが抱える経済問題からの脱却で非常に重要な役割を果たす。この数年の短期的目標では人の流れを重視するが、長期的には質の高い、より持続可能で高級志向の観光を目指しており、カジノやギャンブルもその一部になる」との見方を示した。

スリランカの観光業は昨年の国内総生産(GDP)に占める割合が約4%となり、政府は最終的にこれを10%まで引き上げる方針だ。一部は高級志向のゲーミングが担う見通しだという。観光業はスリランカにとって出稼ぎ労働者の本国送金、アパレル輸出に次ぐ第3の外貨獲得源となっている。

スリランカ中央銀行が今月発表した今年の成長率見通しは、観光業の堅調を踏まえて約4.5%となり、4月時点の世界銀行予想の3.5%を大きく上回った。

スリランカの年間GDPは約990億ドル。国際通貨基金(IMF)から29億ドルの支援を受けるまで2年間にわたり大幅な経済縮小に苦しみ、昨年になってプラス成長に戻ったばかりだ。2022年には対外債務のデフォルト(不履行)に陥り、28年から債務返済を再開する必要がある。

<大きな期待>

コロンボの海岸沿いに建てられたシティ・オブ・ドリームスは800の客室、高級品を扱うモール、会議施設等を備えており、投資家は富裕層の利用を見込んでいる。

メルコのローレンス・ホー会長兼最高経営責任者(CEO)は「(スリランカは)全く新しい市場だ。これまでにマニラ、マカオ、キプロスで市場を開拓してきたが、それらと同じだ」と説明。「この国の観光の潜在力、そして統合型リゾートにおけるゲーミングの潜在力については、まだ表面をかすった程度にすぎない」と事業拡大に意欲を見せた。

ラナシンハ氏は、今後10年間は主な観光客がインド人になると見込んでいる。人口が世界最多のインドではカジノがごく一部の指定地域でしか認められていない。また、中国では合法的なカジノの営業はマカオに限られている。

昨年にスリランカを訪れた観光客200万人のうちインド人がほぼ4分の1を占め、中国人は7%。スリランカはインド、中国の政府と緊密な経済関係を維持しており、両国民は査証(ビザ)なしでスリランカに入れる。

スリランカ議会は先週、歳入の拡大と責任あるギャンブルの推進を目的にギャンブル規制局を創設する法案を可決した。ただ、この法律は、財務相に広範な権限を与える一方で、国営宝くじを監督対象から除外し、観光業界の代表が当局に含まれず、違反に対する罰則が軽いなどの点が専門家から批判を浴びている。

一方、政府は同法が社会的な害悪を減らし、雇用を増やしてカジノ産業を促進するのに不可欠だと主張している。

ラナシンハ氏は「これまでもスリランカやコロンボにギャンブルはあったが、規模はそれほど大きくなかった。シティ・オブ・ドリームスの開業で世界中から顧客がスリランカにも来ると信じている」と期待感を示した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中