コラム:米インド協議目先難航か、ロシア産原油以外に多くの争点

米国とインドの貿易問題を巡る対立は、最終的に和らぐとしても目先は激化する可能性が十分にある。写真はLNG燃料で動くロシア船。2024年9月、インドのグジャラート州バティナールで撮影(2025年 ロイター/Amit Dave)
Una Galani
[香港 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国とインドの貿易問題を巡る対立は、最終的に和らぐとしても目先は激化する可能性が十分にある。トランプ米大統領は既にインド製品向けの関税率として25%を提示しているが、インドがロシア産原油購入を続けているとの理由で、税率の引き上げを表明。インド側はそうした脅しに正当性はなく、合理性を欠くと反論している。両国が合意する可能性はあるだろうが、溝を埋める作業は一筋縄ではいかないように見える。
トランプ氏が仕掛けた貿易戦争において、インドは勝ち組どころか、中国とともに大いなる負け組になる様相が急速に濃くなってきた。当初は中国を孤立させ、同国の輸出品が東南アジアを通じて米国に入ってくるのを阻止したいというトランプ氏の願いが、インドのプラスになると考えられた。ところがトランプ氏のロシアへの態度が突然冷淡になり、インドのモディ首相が国内の貧しい農家を守ろうとして農産物市場開放に消極的な姿勢を堅持していることで、インドは苦境に立たされた。
インド経済はトランプ氏の圧力に当面耐えることは可能だ。野村証券の試算では、米国がインド製品に25%の関税を課した場合、今年度の国内総生産(GDP)成長率の押し下げは0.2ポイントほどとなる。インドが原油輸入量の4割分を安価なロシア産原油で賄おうとするのは「国家的な責務」だと主張しているのは間違いない。しかしインドはロシア産原油なしでもやっていける。足元の消費者物価指数の前年比上昇率は2.1%と2019年1月以来の低い伸びなので、1バレル当たり4ドル前後割安なロシア産原油の購入をあきらめても、国内の物価状況にそれほど大きな痛手をもたらさないだろう。
ただ、ロシアを冷たくあしらうことでインドは原油以外にも失うものが多い。インドが武器の調達先を多様化するのに伴って、両国の長年にわたる関係は管理された形で縮小を続けるかもしれない。それでもインドにとってロシアは信頼できるパートナーで、ロシアとのつながりはインドの多国間外交の足場を強化してくれる。トランプ氏がインドの「宿敵」パキスタンとの石油開発協力を決定した上に、いつかこれ見よがしにパキスタンへ石油を売ろうとするかもしれない点も、インドがトランプ政権と常にある程度距離を置こうとする動機を強めるだろう。
インドは、米国が中国との間でどのような合意に至るか見極める余裕もありそうだ。中国は、ロシア産原油購入を止めろという米国の要求について、自国のエネルギー主権を守り抜くと誓っている。これがトランプ氏にとって、中国と大々的な取引を成立させる上で大きな壁だ。最終的には、米国は中国への対抗勢力という位置づけでインドとの良好な関係を維持することの価値を理解するかもしれない。だがインドとすれば、米国がそれに気づくまでの待ち時間は何とも気まずい思いをさせられるだろう。
●背景となるニュース *トランプ米大統領は4日、インドがロシア産原油購入を続けているとの理由で関税率をさらに引き上げると示唆した。インドはそうした非難を「不当」として自らの経済的な利益を守ると表明し、両国の対立が深まっている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)