焦点:イスラエルがガザ住民の「脱出」制限緩和、リゾート構想との関連不明
5月19日、イスラエル当局は1年以上前から、アイエド・アユブさん(57)が家族とともにパレスチナ自治区ガザを脱出し、学術研究のためフランスに向かうのを阻止してきた。写真は10日、ガザ北部に沈む夕日。イスラエル側から撮影(2025年 ロイター/Amir Cohen)
Nidal al-Mughrabi Alexander Cornwell
[カイロ/ラマラ/イスラエル・ガザ境界 19日 ロイター] - イスラエル当局は1年以上前から、アイエド・アユブさん(57)が家族とともにパレスチナ自治区ガザを脱出し、学術研究のためフランスに向かうのを阻止してきた。しかしここ数カ月で突然、境界管理を緩和し、アユブさん一家は先月ついに脱出が叶った。
最近の規制緩和により、アユブさんらのようにバスでガザを離れ、飛行機で欧州その他の地域に向かったパレスチナ人が約1000人いることが、当事者や外交官の話で分かった。
「ガザの状況は耐え難いものになった」と語るエンジニアのアユブさんは、2000年代初頭にフランスに留学し、博士号と修士号を取得した経緯がある。フランスは4月、アユブさんを含むガザ住民115人を受け入れた。
こうした移住には外国政府からイスラエル政府への要請が必要で、移住者の数は今なお比較的少ない。
ロイターは、イスラエルがガザからの脱出を以前より多く認めるようになった理由を確認できなかった。ただ、イスラエルはガザ住民の諸外国への再定住を促すと明言しており、制限緩和はその目標と合致する。
イスラエルのネタニヤフ首相にとって、大量の再定住を掲げることは、イスラム組織ハマスとの停戦などに反対する極右の連立与党からの支持つなぎ止めにもつながる。
アルベル内相は最近のガザ住民の欧州移住について、一時的かつ自発的なガザ退去により、トランプ米大統領案に着想を得た再建を可能にする動きだと表現した。
トランプ氏は、ガザをパレスチナ人がいない海岸リゾートとして再開発する構想を示している。
アルベル氏は4月1日に「この重要なイニシアチブを考案したトランプ大統領に感謝する。力を合わせ、この場所を楽園に変えていく」と述べた。
内相の報道官はコメント要請に応じなかった。フランス外務省は、同国がガザからの強制移住に反対の立場を堅持していると表明した。グテレス国連事務総長は、トランプ氏の構想は民族浄化に等しいと警告している。
イスラエルの当局者5人はロイターに対し、制限緩和はトランプ氏案への直接的な対応ではなく、そうした計画の一部でもないと述べた。1人は、イスラエルはガザの人口を減らそうとしているのではなく、安全な場所への移住に手を差し伸べる各国からの要請に応えているのだと語った。
多くのパレスチナ人にとって、移住は土地を奪われた歴史を想起させるものだ。アユブさんを含め、最近ガザを離れた人々はロイターに対し、移住は一時的なものだと語った。しかし、イスラエルによる1年7カ月に及ぶ攻撃でガザの大部分が破壊され、人口の大半が避難を余儀なくされて援助物資に頼る状況下、最近のパレスチナでの世論調査によるとガザ住民のほぼ半数が移住を検討すると答えている。
ネタニヤフ首相はトランプ氏の案を称賛すると同時に、重大な障害を指摘している。ネタニヤフ氏は13日に「われわれは1つ問題を抱えている。受け入れ国が必要だ」と述べた。隣国のヨルダン、シリア、エジプトはガザ住民の大規模受け入れに消極的だ。
ロイターは、最近ガザを離れた住民5人に加え、外国の外交官9人、イスラエル当局者7人に話を聞いた。
外交官らは、トランプ氏が大統領に就任してガザに関する提案を行う以前の昨年末から、イスラエルは外国政府に制限緩和を通知し始めたと述べた。
制限緩和は年明けにほぼ実行に移された。外交官によると、外国籍を持つパレスチナ人、その親族、外国の奨学金受給者の出国申請から承認までには、以前なら数週間から数カ月を要していたが、現在は数日で終わる。また、イスラエルが安全保障上の理由から出国を拒否していたパレスチナ人も許可されるようになったという。
<ガザの人口減少>
パレスチナ統計局によると、ガザの人口は戦争の過程で約16万人減少し、現在約210万人となっている。5万3000人以上が死亡し、残りは脱出した。
戦争初期に数千人の外国人が脱出したが、イスラエルが昨年5月にエジプトとの間にあるラファ検問所を掌握し、ガザの境界をほぼ完全に封鎖して以降、出国許可を取るのは非常に困難になった。
外交官らによると、欧州諸国を中心に10カ国以上がガザ住民を受け入れるようになっており、その大半は3月以降に実施された。
パレスチナ人の移動の自由を擁護するイスラエルの人権団体ギシャは、イスラエルの制限緩和は「部分的で一貫性なく、透明性がない」と指摘し、より多くの人が退去を許可されるべきだと訴えた。
<私たちは戻ってくる>
現在のイスラエルの出国基準を満たすガザ住民はごく一部に過ぎず、基準を満たす者にとっても、その選択は容易ではない。
多くの人は、故郷を離れれば、1948年のイスラエル建国に前後して数十万人のパレスチナ人が家を追われた「ナクバ(大惨事)」の再来を招くと恐れている。
アユブさんと同じグループで脱出した詩人のドゥニア・アル・アマル・イスマイルさん(53)は「条件が整い次第、できるだけ早くガザに戻る」と語る。夫を亡くしている彼女は、研究者や芸術家を支援するフランスの学術プログラムへの参加枠を確保し、娘と息子と共に故郷を離れた。
アユブさんは脱出を巡って葛藤していた。子どもたちにより良い未来を築けることに安堵しつつも「姉と彼女の子どもたち、そして私にとって大切な多くの人々を残してきた」との思いを抱える。
「幸せを感じた次の瞬間、ガザで起こっていることを思い出す」とアユブさんは語った。
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