ニュース速報
ワールド

焦点:戦場か国外か未来への選択、苦渋するウクライナの若者

2024年12月06日(金)17時21分

 ウクライナの首都キーウ出身のロマン・ビレツキーさん(写真)は、18歳の誕生日を1カ月後に控えた今年2月、西に向かう列車に乗り、家族と別れてウクライナを出国した。従軍を逃れるためだ。「最後の最後まで決断を先送りした。片道切符だった」と、ビレツキーさんはスロバキアの大学寮で振り返った。スロバキア・コシツェで10月21日撮影(2024年 ロイター/Radovan Stoklasa)

Anastasiia Malenko

[キーウ 5日 ロイター] - ウクライナの首都キーウ出身のロマン・ビレツキーさんは、18歳の誕生日を1カ月後に控えた今年2月、西に向かう列車に乗り、家族と別れてウクライナを出国した。従軍を逃れるためだ。「最後の最後まで決断を先送りした。片道切符だった」と、ビレツキーさんはスロバキアの大学寮で振り返った。

異なる道を選んだ若者もいる。アンドリー・コティックさんは2022年にロシアとの戦闘が始まって間もない頃に18歳になり、軍に志願した。ウクライナ北東部ハルキウの任務地にいるコティックさんは防弾チョッキを着て自動小銃を持ち、「考え尽くして入隊すべきだと判断した。祖国を守りに行くと言った。逃げるよりも戦う方がいい」と語った。無人機(ドローン)の攻撃を生き延び、車両の修理を待っている。

2022年2月のロシアによる全面侵攻以来、ウクライナは成人男性の大半の出国を禁じている。ロイターがウクライナの若者やその家族、軍の徴兵担当者、当局者に行ったインタビューから、成人を控えた多くの若者やその家族が「国内に残るべきか、出国するべきか」という厳しい二者択一を迫られている実態が浮き彫りになった。

大半の若者は国内に残るが、塹壕で死傷するのを回避するために出国を選ぶ者もいる。一方、戦争は来年2月で4年目に入るがロシアが優勢で、ウクライナは高齢化して枯渇する兵力の強化に躍起となっている。

欧州連合(EU)の統計によるとウクライナは戦争開始以降、14歳から17歳までの国民19万人余りがEU諸国で一時的保護の資格を得ている。国外避難の総人数は数百万人だ。

ウクライナは今年春に戦闘への動員年齢を27歳から25歳に引き下げたが、同盟国は若者の動員を増やすよう圧力を強めている。ウクライナ政府はこうした要請を拒否している。

ブリンケン米国務長官は4日のロイターとのインタビューで、ウクライナは難しい決断を迫られていると指摘。「例えば、若い世代を戦闘に参加させることが必要だと多くの人が考えている。現在は18歳から25歳の国民は戦闘に参加していない」と述べた。

<子どもじみた考えを捨てた>

ビレツキーさんもコティックさんも、自分の選択を後悔していない。

ビレツキーさんは18歳の誕生日が近づくにつれて恐怖心でいっぱいになり、「出国しなければ後悔すると思った」と語った。

家族はビレツキーさんを送り出すため、苦悩しながら準備を進めた。「皆気持ちを抑え込んでいた。家族全員、私が出国しなければならないと分かっていた」。

一方のコティックさんは音楽学校を卒業後、戦争が始まると友人4人とともに軍に志願した。今は21歳。「最初の2回の任務は本当に、本当に怖かった」が、じきに慣れたという。

戦争で自分は根本から変わり、「子どもじみた考えは捨てた」と言い切った。それでも、いつか再び音楽の世界に戻る夢や結婚する希望は捨てていない。多くの若者が国外に逃れる理由は理解しており、彼らを批判するつもりはないが、心に痛みが走るという。戦場の兵士たちが限界に達しているからだ。「みんな本当に疲れ切っていて、全員が交代を必要としている」と語った。

クレバ前外相など一部の政府高官は、国外に住む徴兵適齢期の男性を公然と批判している。祖国のために戦って命を落としている国民がいるからで、戦争が最終的に終結し、脱出した国民が海外から帰国し始めたときに国内で対立や分断が生じる恐れがある。

<未来を手にする>

駐ウクライナのカナダ大使によると、ウクライナ軍兵士の平均年齢は40代。ウクライナ政府は兵士の平均年齢についてのデータを公表していない。

キーウに拠点を置く第3強襲旅団の採用担当者、ボロディミル・ダビデューク氏は「軍にはより多くの若い兵士が必要だ。若者はより高い士気と持久力を隊にもたらすことができる」と訴えた。

コティックさんが所属するハルティア旅団は、高校卒業や大学卒業といった人生の節目を迎える若い男性を対象に採用を強化する方針だ。

ウクライナは軍だけでなく全体的に労働力が不足している。今回の戦争で数万人が命を落とし、前線に向かう国民が増える一方、出生率が急落し、多くの人びとが国外へ逃れたためだ。

政府統計によると2024年上半期の出生数は8万7655人で、21年上半期の13万2595人から約3分の1減った。

一方、国連の統計によると、侵攻開始以降、全年齢層合わせて約700万人が国を離れ、今年9月末時点で約420万人がEUの一時保護を受けている。

ウクライナ政府は国民のさらなる国外脱出を食い止め、海外にいる人々を呼び戻そうとしている。議会は3日、チェルニショウ副首相を国民の帰国促進に取り組む「国家団結省」のトップに任命する人事を可決した。

しかし国民に帰国を促すのは容易ではない。ロシアが攻勢を強め、ウクライナの電力網はミサイル攻撃で破壊され続け、しかも米国でトランプ氏が次期大統領に就くことになり西側諸国からの支援の先行きが不透明になっている。

スロバキアのブラチスラバで学ぶビレツキーさんの母親、スビトラーナ・ビレツカさんは、キーウ駅のプラットホームで息子の旅立ちを見送ったときのことを思い出して涙をこらえたが、それでも息子は当面帰国すべきではないと考えている。

「決断するのはとてもつらかったけれど、正しい選択だったと確信している」と語った。「これは彼が未来を手にできるかどうかに関わる問題だ。今のウクライナでは未来をどう実現したらいいか分からないから」。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中