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アングル:住宅難と就職難に怒る韓国の若者、文大統領後継に逆風
6月11日、ソウル東部にある大学に通うキム・キュンオクさん。講義以外の時間には、大学近くの集合住宅の建ち並ぶ一角で、徒歩で料理の宅配に勤しむ。ソウルの投票所で4月撮影(2021年 ロイター/Kim Hong-Ji)
Cynthia Kim
[ソウル 11日 ロイター] - ソウル東部にある大学に通うキム・キュンオクさん。講義以外の時間には、大学近くの集合住宅の建ち並ぶ一角で、徒歩で料理の宅配に勤しむ。その一方で、携帯電話を頻繁にチェックし、株式や暗号通貨の取引、そして中古のナイキスニーカーの売買に忙しい。
今年後半の大学卒業後に高待遇の職を見つける上では恐らく役に立たないだろうが、キムさんによれば、文在寅(ムン・ジェイン)政権下で進行する就職難と所得格差の拡大を考えれば、こうして副業に励むのが「賢いやり方だ」という。
キムさんに象徴される「失われた世代(ロスト・ジェネレーション)」が、来年の大統領選の結果を大きく左右する重要な有権者層として浮上しつつある。すでに4月のソウル市長選挙では、キムさんのような有権者の動きを追い風に保守系野党候補が圧勝した。
「政府は、まだ正社員の仕事を見つけられない人、あるいは資産を保有していない人を全員締め出そうとしているかのようだ。状況がうまく行っていないことを教えてやるためには、せめて野党候補者に投票するくらいしか私にはできなかった」とキムさんは言う。
青瓦台(韓国大統領府)からのコメントは得られなかった。
1期5年の任期満了まで残り1年、「もっと公正で思いやりのある、平等な社会」という文大統領の公約を空々しく感じる人は多い。その中でも、パンデミックが引き起こした景気後退は、20代、30代の若者に特に厳しい打撃を与えた。
25-34才の年代に占める高等教育修了者の比率は、経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも韓国が最も高い。
韓国の歴史においても最も教育水準の高い世代であるにもかかわらず、15-29才の年齢層では4人に1人近くが5月時点で実質的に無職だった。労働人口の他の年齢層では13.5%だから、その比率は大幅に高い。
<手の届かぬ住宅価格>
教養学部に在籍するイ・ジュンさん(27才) にとって決定打となったのは、韓国土地住宅公社の職員がインサイダー情報を利用して住宅価格高騰に乗じて利益を得ていたという3月の報道だった。
「信じがたいようなマンション価格を目にするだけでも辛かったというのに、住宅供給やローン供与を絞った挙げ句に、ああいう特権的な情報を悪用するとは、どういうつもりか、吐き気がする」とイさんは言う。彼はソウル郊外でワンルームマンションを購入する資金を貯めている最中だ。
ソウル地域の集合住宅の価格は、2017年の文政権成立以来、20回以上にわたり住宅価格抑制策を打ってきたにもかかわらず、約60%も上昇している。
イさんによれば、投機的な住宅購入を抑止するさまざまな懲罰的課税や、取り壊し・再建型の開発に対する規制強化といった措置は、賃借人側を傷つける結果に終ったという。
最低賃金を2017年以来35%引き上げた政策も、やはり広く賛否を呼んでおり、小売・サービス部門全般で低賃金雇用の減少を招いているという批判がある。
「親の資産を当てにできず、収入が高騰する一方の家賃と食費に費やされてしまう以上、将来を思い描くことが本当に難しい」と、イさんは言う。収入の約半分が家賃に消えるというイさんは、選挙では野党に投票する予定だ。
住宅事情の悪化は文政権の支持率に打撃を与えており、韓国ギャラップによる世論調査では、昨年5月に71%だった支持率は、現在は38%前後で推移している。若い世代の支持が保守系野党にシフトしているためだ。
選挙が近づくにつれて、文大統領の後釜を狙うリベラル系の出馬予定者らは、有権者全体の約3分の1を占める20代、30代有権者の信頼を取り戻そうと競い合うようになっている。
世論調査でリードするのは、京幾道知事の李在明(イ・ジェミョン)氏。5月には、大学に進学しないことを選択した高校卒業生に対して、1000万ウォン(98万円)相当の「世界旅行」クーポンを与えることを提案した。
文政権のもとで首相を経験した丁世均(チョン・セギュン)、李洛淵(イ・ナギョン)両氏も、社会に出る若者を支援するため、投資のためのシードマネーや家賃補助を提供することを公約している。
主要野党である「国民の力」からは、こうした措置では若年層有権者のニーズに応えるには不十分だという声があがる。
「体内でがんが増殖しているのに鎮痛解熱剤を与えるようなものだ」と語るのは、ハーバードで学んだコンピューター専門家で、11日に行われた「国民の力」代表選で同党代表に選出された36歳の李俊錫(イ・ジュンソク)氏。
李氏をはじめとする「国民の力」関係者は、若い世代の意見をもっと反映し、テクノロジー系新興企業を支援していくため、若い世代をもっと党幹部に抜擢していきたいと述べている。
(翻訳:エァクレーレン)