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アングル:米でJ&Jワクチン不人気、対外供与に回る可能性も

2021年06月11日(金)12時22分

 6月7日、米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの米国内での接種がペースダウンしている。写真は5月、ニューヨークでJ&Jのワクチンを準備する医療関係者(2021年 ロイター/Carlo Allegri)

Michael Erman

[ニューヨーク 7日 ロイター] - 米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの米国内での接種がペースダウンしている。安全性の懸念に加えて、ワクチン接種に対する需要が全般的に足踏みしているためだ。このため、米国内向けに生産された2100万回分のワクチンのうち、半分近くが未使用のままとなっている。

J&J製ワクチンは、農村地域やワクチン接種に消極的な米国民にも接種を進めていく上で重要なツールになると想定されていた。接種が1回で済み、2回接種が必要な米ファイザーもしくはモデルナのワクチンに比べて、保管条件もそれほど厳格ではないからだ。

だが、まれに生じる安全性の問題を調査するために一時的に使用中止となった後、接種が再開されて6週間になるが、米国民はおおむねJ&J製ワクチンを避けている。米疾病予防管理センター(CDC)によるデータと、国内8州の保健当局者・薬剤師へのインタビューにより判明した。

サウスカロライナ州ラマーにある非チェーン系の薬局「ラマー・ファミリー・ファーマシー」のオーナー、ミシェル・バーガス氏は、「以前は接種の順番待ちリストを抱えていたが、今は1日1回、せいぜい1日4回しか接種していない」と語り、農村地域の小さなコミュニティであるラマーでは、J&J製ワクチンへの需要が急減していると言う。「人々は安全性を懸念している。今のところ、それが最大のハードルだと思う」

CDCのデータによれば、5月25日までの1週間で、J&J製ワクチンの接種を受けた米国民は65万人以下で、ワクチン接種全体の約5%だった。接種が一時停止される前の週には300万回近く接種されていた。

4月中旬以降、ワクチン全体に対する需要も減速しているが、J&J製ワクチンは他社製に比べると落ち込みがかなり急だ。

これだけ接種ペースが落ちると、J&J製ワクチンの一部は使用期限切れを迎えてしまう。一方で、世界全体ではどのメーカーのものであれCOVID-19ワクチンへの需要は高い。米国政府は3日、2500万回分のワクチンを他国に無償提供すると発表したが、その一部はJ&J製ワクチンになるだろう。

J&Jのウェブサイトによれば、少なくとも13ロット分のワクチンが6月27日までに使用期限を迎える。これがどの程度の接種回数に相当するかは不明だが、ワクチンの保存可能期間は3カ月であり、ほとんどは4月上旬に出荷されている。そのうち1100万回分は4月第1週の出荷だ。J&Jでは、さらに1億回分のワクチンを用意しているが、出荷時期は確定していない。

何回分のワクチンが6月末までに期限切れを迎えるかについて、J&Jの広報担当者はコメントを控えるとしている。

この広報担当者は声明で、J&Jは自社製ワクチンの利用を支援するため連邦政府、保健当局と協力していると述べ、COVID-19とのグローバルな戦いにおいて重要なツールであると位置付けた。

「多くの死者を出している今回のパンデミックをできるだけ早く終息させるため、引き続き尽力していく」と、J&Jはしている。

<「ファイザーとモデルナにしておこう」>

CDCと米食品医薬品局は4月中旬、2週間近くにわたってJ&J製ワクチンの使用を停止した。非常にまれだが生命に関わる可能性のある「血小板減少を伴う血栓症候群」(TTS)と呼ばれる症例とワクチン接種の関連を調べるためだ。

当局は、ワクチンのメリットはリスクを上回ると判断した。TTSの症例は、英アストラゼネカ製のCOVID-19ワクチンにも関連付けられている。

ネブラスカ州で薬局「コールズ・ファーマシー」6店舗を展開する薬剤師のデビッド・コール氏によれば、安全性の問題が浮上する前、複数の企業が従業員向けにJ&J製ワクチンを接種できないか同氏に問い合わせてきたという。

「トラック運送会社、その他はもっとブルーカラー寄りの、あるいはワクチン接種を呼びかけにくい労働者を抱える企業だった。J&J製ワクチンの全面採用を求めていた」とコール氏は言う。だが安全性問題で使用が一時中止となって以来、「恐らく8割が『ファイザーとモデルナにしておこう』と言ってきた」

J&J製ワクチンの接種が停止されている間、公衆衛生当局者は、それまで同社ワクチンを使用していた巡回形式のクリニックや事前予約不要のクリニックでは代わりにファイザーとモデルナのワクチンを使うのが適当たと述べていた。

アラバマ州の公衆衛生当局に所属するカレン・ランダース博士は、「初回投与のために来てもらえれば、ワクチン接種を受ける意志があるのだから、2回めも来てくれるだろう」と語る。

州及びCDCのデータによれば、ワクチン接種への忌避感が強いワイオミング州やアラバマ州、またワクチン接種がすでに進んでいるメーン州やオレゴン州のような場所では、J&J製ワクチンの利用が減少している。

J&J製ワクチンの需要が急減している例ばかりというわけではない。ニュージャージー州アトランティック・ハイランズで「ベイショア・ファーマシー」を営むリチャード・ストライカー氏は、特に血栓発生のリスクが低く1回接種で済むことを好む高齢者の間では、J&J製ワクチンへの関心は高いという。

J&Jは、現時点では利益のためにワクチンを販売しているわけではない、と述べている。SVBリーリンクのアナリスト、ダニエル・アンタルフィ氏は、安全性をめぐって使用が一時中止された際、今年ワクチンの需要が低下してもJ&Jの財務上は大きな問題にならないと述べていた。

だが、開発途上国がワクチン接種を加速させるべく今後の調達契約を締結する中で、ファイザーやビオンテック、モデルナといったライバルにとっては状況が有利になるかもしれない。ファイザーとビオンテックの場合、EU相手の契約額だけでも現行価格で計算して2023年までに少なくとも160億ドル(1兆7500億円)。すべてのオプションが行使されれば、最大で2倍になる。

J&J製ワクチンの展開をめぐっては、他にも障害がある。規制当局は、アストラゼネカ製ワクチンとの交差汚染を理由に、J&J製ワクチンを製造している米国内最大のプラントに生産停止を命じた。そのため、5月中旬以降、米国内では新たに製造されたワクチンは流通していない。

米国の規制当局は、このプラントで製造された最大1億回分のJ&J製ワクチンを使用しても安全かどうか、これから判断するところだ。米国内でのワクチン需要の縮小により、他国への無償供与をさらに数百万回分追加する余裕が生まれる可能性もある。

(翻訳:エァクレーレン)

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