ニュース速報

ワールド

焦点:米上院のコロナ法案可決、攻防で浮かび上がった民主党の脆弱性

2021年03月08日(月)13時43分

 3月7日、米上院は1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルス経済対策法案を可決した。写真はジョー・マンチン議員。ワシントンで昨年12月撮影(2021年 ロイター/Kevin Lamarque)

[ワシントン 7日 ロイター] - 米上院は1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルス経済対策法案を可決した。今回の攻防で明らかになったのは、かろうじて過半を握る与党民主党にとって党内から反対を受けた際に議会運営が困難になるという脆弱性だ。

上院は6日昼、バイデン大統領が提示した法案を民主党議員の賛成のみで可決。審議は前日から徹夜で続いていた。民主党上院トップのシューマー院内総務は来週に下院で承認され、バイデン大統領の署名を経て早急に成立すると見込んだ。

とはいえ、前日にはウェストバージニア州選出のジョー・マンチン議員(民主党)ただ1人が失業給付に影響する民主党提案に抵抗したことから数時間にわたって上院審議がマヒする場面があった。上院は50対50で民主党と共和党が議席を分け合っており、共和党で法案への賛成者がいなかったためだ。

最終的にはマンチン議員を満足させる解決策が見つかり、民主党は団結を維持して共和党の一連の修正案を拒否。50対49で法案を可決した。共和党議員1人が採決を欠席した。

マンチン議員は7日、ABCの「This Week」に出演し、「対立がある時には少し努力しなければならない。こうした穏健な中間派が仕事をできるようになることを私は常に望んでいる」と語った。

このエピソードは民主党の不安定な優位性を際立たせている。

民主党のクリス・クーンズ上院議員は記者団に対し、「50対50の上院において、1人でも考えを変えれば結果が変わりかねないということを昨日は思い起こされた」と指摘。マンチン議員といった保守派からバーニー・サンダース議員といった進歩派までの民主党上院議員団をシューマー院内総務がまとめていることは「素晴らしい」と指摘した。

失業給付の減額といった、上院での一部法案変更は下院の進歩派を立腹させそうだ。下院は民主221議席、共和211議席となっているほか、単純過半数で法案の可決が可能。民主党は上院に比べれば造反者を出す余地があるものの、一握りしか許せない状況だ。

民主党がインフラ支出や移民改革といったその他優先項目に目を転じる中、上院の規則では大部分の法案を通すには60票の賛成が必要。通常は、民主党の上院議員50人に、同数になった場合のハリス副大統領による決裁票を加えても不十分だ。

今回のコロナ対策法案は、財政調整措置(リコンシリエーション)と呼ばれる手続きにより民主党は60票のハードルを避けることができた。これは歳出、歳入、債務水準に影響する法案を単純過半数で通過させるものだ。しかし、リコンシリエーションの利用頻度や利用目的には制限がある。

<超党派主義?>

一部の進歩派はこれまで、しばしば議事妨害(フィリバスター)と呼ばれる上院の60票ルールを捨て去り、法案の可決スピードを加速させることを求めてきた。しかし、マンチン議員のエピソードはこのアプローチの限界を示している。同議員がいなければ民主党は50票すらなかったためだ。

マンチン議員と同僚のキルステン・シネマ上院議員(民主党)はフィリバスタールールの変更を支持していないため、過半数の支持も集めていない。反対派は同ルールがマイノリティー(少数派)の法案に対する発言権を守るものと主張している。

バイデン大統領はこれまで、議会における党派対立を和らげ、超党派の支持によって法案を通過させたいとの意向を示している。

6日の採決を受けて、多くの共和党議員が法案への支持に近付いていたと信じていると発言。記者団に対し「(将来の法案に対して)彼らの支持を得ることを私はまだあきらめていない」と述べた。

大統領は先週、インフラ支出に関して下院議員との超党派会合を開いた。会合後、共和党のサム・グレーブス議員は自党の懸念が考慮されなければならないと発言。「輸送法案を装っている新たな『グリーン・ニュー・ディール』を共和党は支持しないだろう」と述べた。グリーン・ニュー・ディールプログラムは、米国の炭素排出を削減し、再生可能エネルギーへの投資を望む民主党進歩派が支持している。

しかし、コロナ対策法案を巡る両党の論争は短期的に超党派主義の泉を汚染したかもしれない。

共和党側は、コロナ対応で超党派コンセンサスを見いだすことに民主党が真剣ではなかったと指摘する。

スタンフォード大フーバー研究所シニアフェローで、共和党の大統領補だったミット・ロムニー氏やマルコ・ルビオ氏の首席アドバイザーを務めた経験があるランヒー・チェン氏は「バイデン氏の超党派主義への呼び掛けは全て誠意がないように感じる。なぜなら署名する最初の大きな法案が党派心に基づいた法案だからだ」と述べた。

民主党のストラテジスト、バド・ジャクソン氏は「民主党が米国民の目から超党派主義に向けて努力していると見られている限り、党の方針に沿った採決を行う必要になっても許されるだろう」と話す。

しかし、民主党にとって物事が楽になる公算は低い。バージニア大学のラリー・サバト教授(政治学)は「民主党にとって見せ場は既に到達した可能性がある」と述べた。

(Susan Cornwell記者、Steve Holland記者)

(※原文記事など関連情報は画面右側にある「関連コンテンツ」メニューからご覧ください)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中