ニュース速報

ワールド

焦点:止まらない独東部の感染拡大、極右のコロナ軽視が対策阻む

2021年01月25日(月)16時41分

 ドイツのザクセン州など東部(旧東ドイツ)地域は全般に西部に比べて経済的に遅れ、住民が高齢化し、新型コロナウイルス感染対策の厳しい外出制限措置に反対する極右勢力への支持が高い。同州内の陶磁器で有名なマイセン市では今、1つしかない火葬場にひつぎがどこまでも積み上がっている。写真は、同市の火葬場運営者、イェルク・シャルダッハさん。1月15日撮影(2021年 ロイター/Fabrizio Bensch)

[マイセン(ドイツ) 18日 ロイター] - ドイツのザクセン州など東部(旧東ドイツ)地域は全般に西部に比べて経済的に遅れ、住民が高齢化し、新型コロナウイルス感染対策の厳しい外出制限措置に反対する極右勢力への支持が高い。同州内の陶磁器で有名なマイセン市では今、1つしかない火葬場にひつぎがどこまでも積み上がっている。

一部の市民にとっては、これは新型コロナが真剣に受け止められないことで起きる出来事についての悲劇的な注意喚起のメッセージだ。一方で、どんどん亡くなっていくのは、単に高齢化が進んでいたからだと受け止める市民がいるのも事実だ。

マイセン市は現在、コロナ大流行によって国内で最悪の打撃に見舞われており、メルケル首相によるドイツの感染抑制努力の足を引っ張っている。

火葬場で昨年12月にだびに付されたのは、前年同月の2倍の1400人。その半分以上が新型コロナだ。運営者のイェルク・シャルダッハさんは、ひつぎの置き場にするため、葬儀に使われていた椅子をすべて取り払ったメーンホールに立ち、「心が痛む」と話す。1月は約1700人に達すると見込まれるペースだという。

シャルダッハさんは「病院では愛する人に手を握られることもなく、ひとりぼっちで死んでいく。遺族は『亡くなりました』と電話で告げられるだけで、ご遺体に最期のお別れもできず、骨壺を渡されるだけだ」と話す。

昨年のドイツの感染第1波で、多くの東部地域は比較的、影響が軽かった。しかし、今、状況はがらっと変わった。特にザクセン州は現在、7日間平均の感染率が国内平均(10万人当たり136人)のほぼ2倍で、州別では2番目に高い。

ここは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の強固な地盤州だ。先週にザクセン州を抜きトップとなったのは隣接するチューリンゲン州だったが、そこもやはりAfD支持が高い。

ザクセン州議会の社会民主党(SPD)議員、フランク・リヒター氏は「州政府がもっと早く行動していたなら、パンデミックを抑え込めていただろう。しかし、今やザクセン州はドイツの問題児だ。マイセン市の遺体の山は(脅威を)無視したことに対する苦い教訓だ」と訴える。

だが、AfDの同州選出連邦議会議員、デトレフ・シュパンゲンバーグ氏は、AfDは責められるべきではないと反論した。「昨年11月から外出制限が発令されていたのに、感染者は減っていない。感染拡大はAfDのせいではない。外出制限措置の巻き添え被害が、メリットを上回るとわれわれは言いたいだけだ」という。

<薄かった危機意識>

ザクセン、チューリンゲン両州首相は昨年9月、メルケル氏が感染第2波の到来を見越して秋から導入しようとした各種の制限措置に反対していた。2人とも最近になって、判断を誤ったと認めることを余儀なくされている。

マイセンの市民に話を聞くと、最近の感染急増の理由について解釈はさまざまだ。

新型コロナなど大したことないと慢心したツケだという説明もあったが、AfDが宣伝に一役買ったウイルス懐疑論への同調も聞かれた。

例年なら観光客でにぎやかな市の大広場で、子どもを連れて雪の中を歩いていたのは、イエナ・シュミットさん(27)。ウエートレスとして働いていた飲食店は昨年11月以来、休業したままだ。「奇妙に感じるのだけど、ここではお年寄りよりも若者たちのほうが、マスク着用や安全な距離確保といったルールを守っている」と話す。

昨年10月に感染者が増え始めたころ、(ルールを守らない)高齢者は「自分は年を取り過ぎているから(死ぬのは当たり前)」とか「どうせ自分はもう余命が短いから」と口にしていたという。「そういう態度が現在の事態を招いている」とため息をついた。

火葬場には、ひつぎを運び込む男性たちが入れ代わり立ち代わり現れる。どのひつぎにも、亡くなった人の氏名、誕生日と死亡日、住所が記された紙切れが付いている。ほとんどが60代後半以上だ。

ホテルでクリーニングを担当している60歳の女性は「パニックとヒステリーばかりね。お年寄りはいつだって死ぬものなのよ。制限措置にも感染予測にもうんざり、飽き飽きだわ」と語った。

メルケル氏と各州首相は19日、厳しい制限措置が期限を迎える今月末以降もさらなる規制が必要かどうか協議する。ドイツは昨年11月に外出制限などの措置に入り、12月初めに強化した。1月18日の国内全体の新規感染者と死者はそれぞれ7000人強と214人で、前日の約半分になった。

<オウンゴール>

シュパーン保健相は、感染状況が改善基調とはいえ、絶対数としてはなお多過ぎると発言している。

マイセン市議会の無所属議員の1人は、ザクセンなど東部州独特の感染急拡大について、欧州有数のホットスポット(感染流行地)となっているチェコ、ポーランド2カ国と接していることも挙げる。「ドイツで働く医者や医療介護スタッフの多くは、チェコのようなホットスポットから(応援に)やって来た。だから、全く助けにならなかった」と説明する。ただ、感染急拡大の最大の理由は、最近まで多くの人がウイルスの存在を信じなかったことにあるとも強調した。

ザクセン州議会のSPDのリヒター氏の分析では、地元のAfD幹部たちが昨夏に制限措置への抗議集会にマスクなしで現れ、公衆衛生や対人距離のルールを無視するよう市民を唆したと批判する。「コロナ大流行との闘いは、試合で勝利を狙うサッカーチームみたいなものだ。選手の一部でもオウンゴールを取ろうとしてしまうようでは、勝利などおぼつかない」とあきれる。

フォルサ研究所の調査では、AfD支持者のうち連邦政府が提供するコロナ情報を信用できると答えたのは、わずか19%だった。公衆衛生や距離確保のルールの「支持」は3割弱。ドイツ国民全体では75%が連邦政府のコロナ情報を信用し、65%が公衆衛生などのルールを支持している。

(Joseph Nasr記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定第1弾を8日発表と表明 米英が

ワールド

デンマーク、米大使代行呼び報道内容確認へ グリーン

ビジネス

日本郵船、今期47.7%の減益予想 市場予想は上回

ビジネス

日本郵船、発行済み株式の11.1%・1500億円を
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 8
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 9
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中