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焦点:日米首脳会談で温度差露呈も、北朝鮮や貿易巡り不透明感

2018年04月03日(火)19時02分

 4月3日、今月の日米首脳会談で、安倍首相は対北朝鮮政策における日米韓の協調体制を再確認し、米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるよう求めるが「温度差」が露呈する可能性もあり、会談の成果には不透明感が漂う。都内で昨年11月撮影(2018年 ロイター/Kiyoshi Ota/Pool)

[東京 3日 ロイター] - 安倍晋三首相は4月17日から20日に訪米し、日米首脳会談を行う。対北朝鮮政策における日米韓の協調体制を再確認し、米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるよう求めるが「温度差」が露呈する可能性もあり、会談の成果には不透明感が漂う。

経済分野でも、鉄鋼・アルミニウムの輸入規制で適用除外を求めると日米自由貿易協定(FTA)を持ち出される懸念もあり、緊張感のある会談になる可能性がある。

<気になる北朝鮮の中短距離ミサイルの扱い>

首脳会談は、フロリダ州にあるトランプ大統領の別荘で17、18日の2日間にわたり行われる予定。

安倍首相は2日、トランプ米大統領に拉致問題の重要性など日本側の主張を伝えると政府・与党幹部に伝えた。「(首脳会談で)拉致問題について取り上げるようトランプ氏に直接要請する」と明言した。

これまで首脳間で培われた信頼感を背景に、日本側の要望を率直に伝え、韓国・北朝鮮の南北首脳会談や米朝首脳会談の開催を前に、日米韓の連携を再確認したい考えだ。

ただ、米・韓・北朝鮮の急速な外交的進展により、日本側にはいくつかの懸念材料が浮上しているとみられる。

一つは、北朝鮮の保有する核弾頭搭載が可能なミサイルの問題だ。安倍首相は「(米国に届く)ICBM(大陸間弾道ミサイル)級だけでなく、(日本を射程に入れる)短・中距離弾道ミサイルの放棄も実現する必要がある」(3月26日、参院予算委員会)と言明。トランプ大統領が、短・中距離ミサイルの放棄も北朝鮮に迫ることを期待しているようだ。

だが、日本にとって脅威である開発済みの中距離ミサイルに対する米国の関心は低いという見方が、日米外交筋から出ている。

政府・与党内にも「トランプ大統領が今、安倍首相と会うメリットは多くない。会えるだけでもラッキーでないか」(与党関係者)との声もある。

また、安倍政権にとって死活的なテーマである拉致問題も、米国民の関心は高いとは言えず、トランプ大統領にとってどの程度の重要性を持つのかわかりにくい。

トランプ大統領は、米朝対話について「長い道のりだったが、世界にとっては良いことだ」(3月7日)とコメントしており、政府・与党内では米朝首脳会談で米国が拉致問題を提起しないリスクを警戒すべきという見方もある。

<読めないトランプ大統領の通商カード>

2つ目の通商・経済問題でも、トランプ大統領がどのような「取引」を提示してくるのか、読めないとの声が日本政府関係者から漏れる。

政府内では、日米首脳会談の開催決定を受け、すでに2度にわたり外務省、経済産業省など関係省庁による、閣僚と幹部が参加した対策会議を開催。米国側の戦術を含めた情勢を巡り、意見交換を行った。ただ、現時点で明確な方向性は打ち出せていないもようだ。

例えば、米国が先月発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置で、日本も欧州連合(EU)や韓国などと同様に「適用除外とするよう働きかけたい」(与党)との意見がある。

しかし、その「代償」として2国間による自由貿易協定(FTA)の締結を首脳会談で持ち出されると「かえって失うものが大きい」(政府関係者)との声もある。

元財務官の篠原尚之・東京大学教授は、ロイターの取材に対し「日本としては『貿易は多国間の枠組みでやるべき』と言い続けるのだろうが、米国は乗らないだろう。いずれは米国のFTA交渉の要求を受け入れざるを得ないのではないか」との見通しを示した。

安倍首相が、この問題でどのような意思を示すのかは「高度に政治的な判断で決まる」(経済官庁幹部)とみられている。

また、現状での可能性は低いものの、将来的に日銀の金融緩和がやり玉に挙げられるリスクも、一部政府・与党関係者の間でささやかれ始めている。

米連邦準備理事会(FRB)が連続利上げに動き、欧州中央銀行(ECB)も緩和縮小を模索する中で、長期金利をゼロ%に固定する現状の日銀の金融政策が、局面によっては「円安誘導策とみられかねない」(与党関係者)ためだ。

渡辺博史元財務官(国際通貨研究所理事長)は、ロイターとのインタビューで「日本の成長率が0.3%程度なら仕方ないが、1.3ないし1.4%なのに、(長期金利の誘導目標が)ゼロ金利で維持というのは(金融政策の世界的な枠組みである)物価目標政策(インフレターゲット)という話(本来の趣旨)と違う、とアメリカが言ってくる可能性がある」と懸念している。

(竹本能文 取材協力:木原麗花 編集:田巻一彦)

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