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アングル:中東緊迫化、日銀は物価リスク警戒 難易度増すインフレ対応

2026年03月12日(木)16時36分

写真は日銀本店。2025年12月、都内で撮影。REUTERS/Manami Yamada

Takahiko Wada

[東‌京 12日 ロイター] - 中東情勢が緊迫化する中、日銀は物価リスク‌への警戒を強めている。ウクライナ戦争開始当時とは日本の賃金・物価​を巡る状況が変わり、原油価格の高騰が基調物価を一段と押し上げる可能性があるからだ。一方、中東情勢の混迷が長期化すれば、交⁠易条件の悪化を通じて企業収益や国内消​費を下押し、インフレを低下させる可能性もある。デフレ対応からインフレ対応に舵を切りつつある日銀の判断は、先行きが見通せない中で一段と難しくなっている。

<賃金・物価、上昇メカニズムに移行>

日銀が警戒を強める背景には、2022年2月のウクライナ戦争開始当初とは賃金や物価を巡る状況が異なるとの見方がある。

当時も原油や穀物市況が高騰、円安も急速に進み、輸入物価指⁠数が前年比40%を超す上昇率を記録したが、日銀は金融緩和を継続した。全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)の前年比上昇率は22年4月以降、2%を超えたものの、賃金上昇率が1%付近から浮上せず、「デフレノルム」が⁠解消して​いなかった。需給ギャップのマイナスも大きく、賃金上昇を促すには経済を下支えする必要があると判断していた。

一方、今回の軍事攻撃は、日本の基調的な物価上昇率が2%に迫っている中で起きた。22年以降の輸入物価高騰は企業行動を変え、企業は価格転嫁に積極的になっている。日銀では、賃金と物価がともに上昇するメカニズムに移行している下で、中東情勢が不透明な状況でも人手不足は変わらず、賃上げ自体は続くとの見方が出ている。

基調物価が2%に接近する中での上振れリスクは利上げの必要性の高ま⁠りを意味する。25年4月にトランプ米大統領が高関税政策を打ち出した際には、日銀は内外経済‌の下振れリスクを警戒して利上げをいったん休止したが、基調物価が2%に迫る現在、利上げを見送っているうちに⁠ビハインド・⁠ザ・カーブに陥ることへの警戒感もある。日銀では、今回の軍事紛争が不確実性を高めたとはいえ、それだけで必要な利上げをためらうことにはならないとの声も出ている。

中東情勢の不確実性を踏まえ、日銀は18―19日の金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決める公算が大きいが、会合後の記者会見で、植田和男総裁は利上げを続ける方針を改めて示し、近い将来の利上げ余地を残すとみ‌られる。

    <中東情勢長期化なら経済・物価に下押し圧力>

    一方で、イラン情勢の帰すうは見通しがたい。​金融市場では‌原油先物や株価指数がボラタイルな⁠状況が続いており、現時点で情勢がすぐに落ち着​くめどは立っていない。原油価格の高騰が交易条件の悪化を通じ、日本経済や企業収益に大きな下押し圧力がかかれば、時間をおいて基調物価にも影響し、2%実現の阻害要因になる。

このような状況下での利上げに対しては、政府からも慎重な判断を求める声が出る可能性がある。不確実性がある中では上振れ・下振れ双方向のリスクに対して最も中立的な立ち位置に調整していく「リスク・マネージメント・アプローチ」‌が必要とされる場面でもあり、日銀では、3月調査短観や4月の支店長会議などを通じ、企業の行動や考えの変化を丁寧に見ていく必要があるとの見方が出ている。

    <経済と物価、想定通りに推移>

    中東情勢の緊迫化​を除けば、1月の金融政策決定会合以降、日本の経済や物価は日銀の想⁠定通りに進んできた。25年10―12月期の実質国内総生産(GDP)2次速報では堅調な設備投資や個人消費にけん引されて成長率が回復。東京都区部のコアCPIは2月に前年比伸び率が2%を下回り、実質賃金は1月に13カ月ぶりにプラス転換した。連合が公表した春闘の賃上げ要求水準は前年並みとなっ​た。物価と賃金、そして消費の好循環が回り出していることが示された。

「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」との基本姿勢のもと、中東情勢が日本の経済や物価にどのような影響を及ぼすのか、日銀は情勢の変化や企業行動を注視している。

ロイター
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