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日銀の情報発信、利上げ判断につながる変化 円安を警戒

2025年11月26日(水)13時09分

2024年3月18日、日銀本店。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Takahiko Wada

[東京 26日 ロイター] - 日銀が利上げの是非を検討する中で、市場への情報発信を変えてきている。植田和男総裁は円安が基調的な物価上昇率に波及する可能性に初めて言及、外為市場で円安傾向が強まれば、利上げ判断につながり得るとの考えを示唆した。高田創審議委員や田村直樹審議委員のほかに近い将来の利上げを支持する審議委員が出てきており、市場でも12月利上げを織り込む動きが出ている。

日銀は10月展望リポートで、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで「過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」としてきたが、植田総裁は21日の衆院・財務金融委員会で、為替円安に端を発した物価上昇が予想物価上昇率への影響を通じて「基調的な物価上昇率に影響する可能性にも留意していかないといけない」と述べ、為替円安に警戒感を示した。

日銀は基調的な物価上昇率について「2%に向かって緩やかに上昇している」とのスタンスだが、その上振れは利上げにつながり得る。植田総裁の国会答弁は為替円安の影響について、さらに踏み込むものだ。日銀では、足元の円安はもはやレンジ内の動きではないとの警戒感が出ている。

植田総裁は10月の金融政策決定会合後の会見で、次回の政策判断に当たっては春闘の「初動のモメンタム」を重視すると強調した。日銀はそれまで米経済の下振れリスクを重視してきたが、総裁は米経済の下振れリスクは「やや低下した」と指摘。経済・物価が見通しに沿って推移する中、利上げ時期が迫っていることを明確にする狙いがあったとみられる。植田総裁は「最終の春闘の妥結の賃金上昇率がどれくらいになるか、ということについて、きちんとした姿を知るまで待ちたいということではない」と踏み込んだ。

9月、10月の金融政策決定会合で利上げを支持したのは高田創、田村直樹審議委員の2人にとどまっていたが、ここに来て近い将来の利上げに前向きな審議委員が複数出てきている。小枝淳子審議委員は20日の講演で、実質金利は「他国と比べても明らかに低い」とし、実質金利を均衡状態に戻していく金利の正常化を進めることが「将来に意図せざるゆがみをもたらさないためにも必要だ」と述べた。

増一行審議委員は一部メディアのインタビューで、日銀の利上げ判断が「近づいている」と述べた。増委員も実質金利の低さに言及したほか、政策金利が中立金利を下回っている現状について「早くそこから抜けたいと強く思っている」と述べた。

植田総裁は18日に高市早苗首相と会談。会談後、記者団に対し「経済、物価、金融情勢、金融政策についてさまざまな側面から率直に良い話ができた」と語った。首相からは政策面の要請や要望はなかったという。日銀では、政府サイドに対して日銀の考え方を様々なレベルで丁寧に説明していくことが重要との声が出ている。

日銀は追加利上げについて、決定会合までに集まるデータや情報を丁寧に分析して判断する。東短リサーチ/東短ICAPによれば、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む12月会合での利上げ確率は5割程度まで上昇した。

ロイター
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