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アングル:米中貿易「休戦」なるか、投資家は期待と不安ないまぜで注視

2025年10月28日(火)12時54分

 10月30日に行われるトランプ米大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談を、投資家は既視感を持って注視している。写真は2017年4月、フロリダ州パームビーチで会談する同首脳(2025年 ロイター/Carlos Barria)

Saqib Iqbal Ahmed Yoruk Bahceli

[ニューヨーク/ロンドン 28日 ロイター] - 30日に行われるトランプ米大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談を、投資家は既視感を持って注視している。それは米中貿易戦争の休戦宣言への期待と、実際の合意内容が喜ぶには程遠いのではないかという不安が入り交じったものだ。

米政府当局者が、中国に対する米追加関税の回避と、中国のレアアース(希土類)輸出規制を先送りする内容の合意の枠組みを明らかにすると、27日に世界中で株価が跳ね上がった。

トランプ氏が習氏との首脳会談でそうした合意に署名するとの観測が広がり、米S&P総合500種は1%上昇して過去最高値を更新。韓国や台湾、日本の株価も最高値に達し、金などの伝統的な安全資産は値下がりして投資家がリスクオン姿勢を強める兆しが示された。

これはトランプ氏の大統領1期目と2期目を通じて、例えば2019年の対中貿易戦争中や今年4月の「相互関税」発表後に見られた市場の値動きで、トランプ氏が貿易相手に強硬姿勢で対峙しながら最終的には後退する行動に対応している。

みずほのマルチ資産ストラテジスト、エブリン・ゴメス・リエクティ氏は「大々的なニュースが出て売りが広がり、一時的に市場が動揺したが、今は(米中の)協議が建設的なように見えて、動揺は消えつつある」と説明した。

ゴメス・リエクティ氏はウォール街で話題になった造語「TACO(タコ)」(Trump Always Chickens Out=トランプ氏はいつもしり込みする)に言及した上で「正直に言ってトランプ氏からこうしたニュースが出てくるたびに、いつもTACOのパターンになる。今回もまさにその戦略だったように感じる」と話す。

実際中国がレアアース規制を強化し、それに応じてトランプ氏が中国からの輸入品に100%の追加関税を課すとともに米国製重要ソフトウエアの輸出管理を行うと表明すると、株価は下落した。だが米中首脳会談の1週間余り前になると中国株は上昇しており、TACOトレードのパターンを踏襲している。

米中首脳会談が貿易戦争の明確な終結をもたらさなくても、何らかの緊張緩和があれば投資家は買いに動く態勢にある。

チューリッヒ保険グループのユーロ圏市場戦略を統括するロス・ハチソン氏は「世界の貿易環境で大きな混乱が続いている点を踏まえ、慎重な姿勢を維持している裁量ファンドマネジャーは少なくない。ただしここで明るいニュースが出てくれば、そうした投資家が買い出動する余地は確かにある」と指摘した。

<大きい下振れリスク>

貿易協議を巡り一喜一憂するのは常態化しつつあるものの、投資家には他にも強気になったり慎重になったりする理由がある。

例えば米連邦準備理事会(FRB)が今週追加利下げに動きそうで、場合によっては流動性緩和措置も打ち出す可能性がある点は、さらなる株高を促してもおかしくない。

しかし株価が最高値水準にあり、人工知能(AI)関連銘柄に投資が集中している現状からすると、失望を誘う業績発表が出てくれば、米中貿易合意がもたらす楽観ムードが消え去るか、米中首脳会談が悪い結果になった際の逆風を強める恐れがある。

ブランディワイン・グローバルのグローバル債券ポートフォリオマネジャー、トレーシー・チェン氏は「これは対称的にはならない。市場は値上がりよりも値下がり方向に大きく反応するだろう」と予想する。

B・ライリー・ウエルスのチーフ市場ストラテジスト、アート・ホーガン氏は、最終的に米国と他の大半の貿易相手は互いに平均で15%の関税を課すと市場は想定していると説明。「この想定を上下どちらかに動かす材料があった場合、下振れリスクの方が大きいのは間違いないと思う」と述べた。

このような期待外れの展開も過去に例があり、直近では今年5月のジュネーブでの米中合意後の動きがそれに該当する。

マッコーリーのグローバル為替・金利ストラテジスト、ティエリー・ウェイズマン氏は「米中は、暫定的な合意の後で交渉を決裂させた例が過去にがある。今回も熱狂はやがて冷めるだろう」とみている。

ロイター
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