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アングル:中国EV技術、海外メーカーの導入相次ぐ 開発迅速化が狙い

2025年09月15日(月)07時58分

2021年、ドイツ高級車アウディの経営陣は、中国自動車大手、吉利汽車の電気自動車(EV)ブランド「Zeekr(ジーカー)」の高級EV「001」を初めて目にした。写真はアウディのEVシリーズ第1弾となる「アウディ E5 スポーツバック」。4月22日、上海で撮影(2025年 ロイター/Zoey Zhang)

[上海/美蘭 11日 ロイター] - 2021年、ドイツ高級車アウディの経営陣は、中国自動車大手、吉利汽車の電気自動車(EV)ブランド「Zeekr(ジーカー)」の高級EV「001」を初めて目にした。欧州風のデザインで、航続距離が長い。アウディの経営陣は「中国と競争するなら彼らの技術が欠かせない」という現実を突きつけられ、危機感を強めた。

上海汽車集団(SAIC)アウディのステファン・ポエツル社長は「ほぼ全員に衝撃が走った。われわれは何か手を打つ必要があった」と、当時を振り返る。

アウディは中国市場向けEVの品揃え強化に動いた。中国の提携企業のSAICが提供する車載電池、電動パワートレイン、インフォテインメントソフト、先進運転支援システムなどの技術を活用し、わずか18カ月で中国市場向け新ブランドの量産モデル「E5スポーツバック」の完成にこぎ着けた。価格は3万3000ドル(約488万円)で、今月から中国の顧客への納車が始まる予定だ。

他の自動車メーカーもアウディと同様に、中国企業の知的財産を生かして新型車を迅速に市場に投入しようとしている。トヨタ自動車とドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、それぞれ中国の提携企業である広州汽車集団(GAC)、小鵬汽車(シャオペン)の技術を使い、中国専用モデルを共同開発する計画だ。

関係者によれば、フランスのルノーと米フォードはさらに一歩踏み込み、中国製のEVプラットフォーム(車台)上でグローバルモデルを開発したいと考えている。ルノーとフォードはコメント要請に応じなかった。

こうしたライセンス契約は、中国EVメーカーにとって規模こそまだ小さいものの、収益源として拡大しており、今のところ両者の間に新たな「持ちつ持たれつの関係」をもたらしている。

世界の自動車メーカーは中国の技術を利用することで開発面の障害を飛び越え、新型EVを素早く市場に投入できる。一方の中国企業は、国内の苛烈な値下げ競争や貿易摩擦が激化する中で、収益源の拡大が必須になっている。

人気EVモデルの調査レポートを提供する上海のコンサルティング会社オートデータスのゼネラルマネージャー、ウィル・ワン氏は、「これは非常に賢く、双方にとってうまみのある解決策だ」と述べた。

<チャイナ・インサイド>

中国メーカーのこうした戦略は、米半導体大手インテルが1990年代に展開した「インテル・インサイド」キャンペーンを彷彿とさせる。インテルは当時、最先端部品を用いることでコンピュータを高級な製品へと変貌させた。

中国の自動車メーカーの場合はEV技術をセットで販売している。つまり財務基盤が弱く、生産能力が低いメーカーでも製造可能な、完成車にすぐ使える「ホワイトレーベル」のEV基盤を提供しているのだ。

中国EVの零跑汽車の朱江明CEOは、同社は欧米自動車大手ステランティスと提携し、中国国外でEVを販売しているほか、他ブランドへの技術ライセンス供与についても交渉中だとロイターに明らかにした。

専門家によると、中国製の既製のEVシャシーとソフトウエアを使うと、数十億ドル規模のコストと数年分の開発期間を節約することが可能で、従来型自動車メーカーが中国勢に追いつく上で支援材料になる。

ルノーは早い段階から中国技術の採用に踏み切り、21年からは、中国の東風汽車のプラットフォームを基に製造した低価格EV「ダチア・スプリング」を欧州市場で販売した。事情に詳しい2人によると、上海の研究センターで開発中の新型の小型EV「トゥインゴ」では、中国のEVエンジニアリング企業ローンチ・デザインがプラットフォーム開発の技術支援を行っているという。

「チャイナ・インサイド」モデルはさらに増えそうだ。消息筋2人によると、フォードはEVプラットフォーム技術を提供する中国パートナーを探している。またVWは中国専用モデルの開発計画を拡大しており、小鵬と共同開発したプラットフォームを活用し、電子部品やソフトウエアの設計を取り入れている。

アナリストによると、従来型メーカーは組織構造が複雑なため、移り変わりの速いEVシステムの開発に苦心している。

<過度な依存にはリスク>

米EV大手テスラに触発されて、中国のEVメーカーは「モジュラープラットフォーム(標準化した部品群の組み合わせで多様な製品を効率的に生産する設計手法)」を開発し、コストの削減、開発ペースの加速、参入障壁の引き下げを実現した。

中国の電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)の元幹部で、現在はコンサルティング会社メープルビュー・テクノロジーを設立したフォレスト・トゥー氏は「彼らはテスラから素早く学んだ」と指摘する。

今や中国企業の優位性は非常に大きく、中国のEVメーカーが海外展開するにあたりライセンスやロイヤリティをサービスとして維持できる水準に達しているという。また、中国の技術輸出は、工業化の進んでいない国が「自国のEVブランド」を構築する支援となり得るとトゥー氏は指摘する。

実際、中国EVメーカー、上海蔚来汽車(ニオ)の戦略的投資家で、アブダビ拠点のCYVNホールディングスは、ニオのシャシーとソフトウエアを用いて独自の高級EVモデルを開発した。

もっとも、中国のEV技術がもたらしているこの「ウィン・ウィンの関係」がずっと続くかどうかは不透明だ。

アストンマーティン元CEOのアンディ・パーマー氏は「他社の技術の導入は研究開発費の節約にはなるが、それに過度に依存すべきではない。長期的には単なる小売業者になってしまう」と危機感を示した。

オリバー・ワイマンのアナリストのサンティーノ氏も「他社の技術を使う最大のリスクは、ブランドを差別化する能力が大幅に制限されることだ」と指摘。その上で、自社技術を組み合わせることで「リスクを抑えることができる」と付け加えた。

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