ニュース速報
ビジネス

アングル:「漸進的な」消費刺激策では足りない中国

2024年08月03日(土)08時31分

 8月2日、中国政府が家計消費支出を刺激する政策は、政府の通年目標「5・0%前後」の経済成長達成に寄与すると期待される。広州の貿易フェアで2023年4月撮影(2024年 ロイター/Ellen Zhang)

[香港 2日 ロイター] - 中国政府が家計消費支出を刺激する政策は、政府の通年目標「5・0%前後」の経済成長達成に寄与すると期待される。中国は世界第2位の経済大国だが、来年以降、政府は消費刺激策を強化するか、成長鈍化を受け入れる必要があるかもしれない。

中国を取り巻く環境は、貿易摩擦が厳しく、地方政府は債務リスクを抱える。消費てこ入れ策を巡っては、中央政府には今後数年間、ほとんど選択肢が残っていない。しかしアナリストらの間では「漸進的な措置」という曖昧な約束では不十分だとの指摘が出ている。

中国政府は7月、超長期特別国債の発行で調達した資金のうち1500億元(200億ドル)を家電など消費財の買い替え補助に充当すると発表した。さらに中国共産党は同30日に開いた中央政治局会議で、財政支出は年末まで「消費に焦点を当てる」と表明し、所得と社会福祉の向上を目指す方針を発表。輸出やインフラ投資に依存していた過去数十年の政策を見直し、慢性的に弱い内需を底上げへと政策の舵を切ったことが浮き彫りになった。

消費財買い替え補助策は、国債による調達資金で家計消費を全国で直接支援する政策としては最初の一歩だが、国内総生産(GDP)比でわずか0.12%規模にとどまる。米シティのアナリストチームは「来年は外的からの逆風が強まる可能性があり、これに備えて追加的な消費刺激策が導入されることはあり得る」と予想した。

<橋ではなく冷蔵庫>

中央政府がインフラ整備よりも消費重視へと政策シフトを進める背景には、米国や欧州のほか、トルコやインドネシアなど新興国の間で中国の貿易優位性に対する不安が強まり、対中関税を引き上げたり、その他貿易障壁を設けたりしたことがある。

中央政府はまた、巨額債務を抱える地方政府を監視し、債務で資金調達したプロジェクトに対する警戒を強めている。中国の財政刺激策の大部分は依然としてインフラなどの投資に振り向けられるが、投資リターンは低下し、地方政府の債務残高は13兆ドルに膨らんでいる。

地方政府は今年上半期に特別債を1兆4900億元(2000億ドル)相当発行したが、これは年間割り当ての38%に過ぎず、中国の財政運営姿勢は予想外に緊縮的だ。

ある政府経済顧問は匿名を条件に「安定した収入を生む本当に良いプロジェクトの数はますます少なくなっている」と打ち明けた。

中国の輸出の見通しはさらに悪化する可能性があり、米大統領選の共和党候補トランプ前大統領が返り咲けばなおさらだ。トランプ氏は全ての中国製品に最大60%の関税を課すと息巻いている。

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの中国主任エコノミスト、ユエ・スー氏の推計によると、米国の輸入関税が10%引き上げられると2025年と26年の中国の実質経済成長率を0.3―0.4ポイント押し下げる可能性がある。

同氏は「トランプ氏の大統領復帰の可能性など外部からの圧力が高まる中で国内経済刺激の緊急性が浮き彫りになっている。従来よりも断固とした国内重視策と財政拡大によってこうした悪影響が部分的に緩和されるのではないか」と言う。

<長期的には再配分必要>

家計消費はGDPの40%未満で、世界平均よりも20ポイント程度低い。

ガベカル・ドラゴノミクスの中国調査部門副責任者のクリストファー・ベドール氏は中国が国内消費を新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準に戻すには3兆─8兆元(4000億―1兆ドル)の財政出動が必要だと推定しているが、同時にこれほどの規模の刺激策が実施されることはあり得ないとも考えている。「政府の消費者刺激策の実績は、正直なところ非常におそまつだ」と話す。

中国政策科学協会の経済政策委員会副委員長であるXu Hongcai氏は、需要を十分に押し上げるには投資プロジェクトから国内消費に5兆元の資金を再配分する必要があるかもしれないと述べた。

「短期的には5兆元は強力な刺激策だと言える。しかし長期的には国民所得(NI)に占める都市部と農村部の住民の収入の割合を20ポイント引き上げる必要がある」と語る。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中