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アングル:「倹約は美徳」のドイツで拡大する後払い決済サービス

2024年02月19日(月)08時29分

若い世代を中心に、アプリ経由その他の方式による1000ユーロ未満のローンを利用するドイツ国民は多い。インフレによりやりくりは厳しくなっているが、雇用が安定しているため、返済は問題なかろうという感覚があるからだ。写真はベルリンで2023年12月撮影(2024年 ロイター/Lisi Niesner)

Maria Martinez

[ベルリン 13日 ロイター] - 3年前、研修生として働いていた18歳のキラ・ジーワートさんは、自由に使えるお金をそれほど持っていなかった。たまにはぜいたくをして新しい服を買いたいと思った時に頼ったのは、このところドイツで利用者が増加している短期のオンラインクレジット制度だった。

ジーワートさんは、「クラーナ」というアプリを使ってパンツとトップスを購入した。30日後の一括払いか、無利子で3回分割の月払いにするという選択肢がある。初回の注文額は120ユーロ(約1万9300円)だったが、支払い義務があるのは返品していない分だけだ。

ドイツでは伝統的に倹約が美徳とされてきただけに、こうした買い物は、両親の世代から見れば隔世の感のあるトレンドの1つだ。

ジーワートさんも「両親の考え方は私とはまったく違っている」と話す。「親たちは、その場で払えるものしか買わないし、たぶん借金を背負うリスクも避けたいと考えている」

「でも私たちの世代では、こういうクレジットの話題はもう秘密でも何でもない」とジーワートさんは続ける。

若い世代を中心に、アプリ経由その他の方式による1000ユーロ未満のローンを利用するドイツ国民は多い。インフレによりやりくりは厳しくなっているが、雇用が安定しているため、返済は問題なかろうという感覚があるからだ。

ベレンベルクのチーフエコノミスト、ホルガー・シュミーディング氏は「これは長期的なトレンドだ。長い目で見れば、ドイツの消費者ももっと普通に、他の欧州国民のようになっていくだろう」

こうした手軽なローン制度は、与信残高全体から見ればごく一部にすぎないが、欧州最大の経済大国ドイツでは消費の追い風になるかもしれない。ドイツの輸出主導型モデルが、グローバル需要の減退という課題に直面しているからだ。

フィッチ・レーティングスの経済担当チームでシニアディレクターを務めるチャールズ・セビル氏は「ドイツでは貯蓄率が低下し、消費性向の上昇が始まると想定している」と語る。「これが2024年の非常に小幅な景気回復のけん引役となるだろう」

ドイツの家計貯蓄率は欧州一だ。欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)の2022年のデータによれば、平均で世帯収入の20%近くが貯蓄に回っており、EUの平均である12.7%を大幅に上回る。ドイツではクレジットカードの人気が低く、過去12カ月間でクレジットカードを利用した国民は、フランスでは全体の60%だが、ドイツでは29%にすぎない。

だが、平均インフレ率が7.9%に達した2022年、ドイツでは分割払い契約が急増した。信用情報を扱う企業SCHUFAによれば、成約件数は910万件以上、前年比で30%の増加となった。

910万件の分割払い契約のうち、42%に当たる380万件以上が1000ユーロ以下の金額だった。20─39歳の年代では、こうした少額融資が契約の50%以上を占める。

SCHUFAで企業の社会的責任(CSR)部門を率いるカイ・フリードリッヒ・ドナウ氏は、「特に若い人を中心に、少額をローンで調達する人が増えている」と語る。

「18歳から19歳の人の場合、最初のうちはローンの金額は比較的小さい。だが就職して定収を得るようになると、利用額は大幅に増える」とドナウ氏は指摘する。

国際決済銀行(BIS)のデータによれば、EU諸国の中でもドイツ、フィンランド、オランダで特に人気が高いのが、後払い決済サービス(BNPL)という仕組みだ。ドイツの小売企業のうち4社に1社は、オンラインでこのオプションを提供している。

クラーナのドイツ事業部を率いるニコル・デフレン氏は、エンドユーザーに負担をかけないディーラーファイナンス型の短期ローンを提供するクラーナにとって、ビジネスモデルの柱となるのは、こうしたBNPL利用者だと話す。

この仕組みを特に支持しているのが、年代としては両極に位置する2つの世代、つまり「Z世代」と呼ばれる1996年以降に生まれた若者と、第2次世界大戦後の20年間に生まれた高齢のベビーブーム世代だ。

「従来のローンと比較した場合のBNPL方式の主な長所は、このローンが特定の購入にひも付けられており、エンドユーザーにとって、ふと気づけば債務が累積していたという状況を防げる点だ」とデフレン氏は言う。

<粗食に耐える必要なし>

ドイツでは年齢のより高い層は、収入に応じた生活を送るべきという信念があり、ドイツの戦後復興を支えた倹約精神を懐かしむ。

だが若い世代はそうした考えにあまり縛られず、景気減速にもかかわらず雇用市場がしっかりしていることで楽観的になっている。

「失業してもすぐに次の仕事が見つかると思えるなら、収入もずっと途絶えるわけではなく、一時的な減収だということになる」と語るのは、ベルリンのフンボルト大学で経済学を教えるマイケル・ブルダ教授。

「若くて学歴もあり、明るい未来が見えているなら、いま粗食に耐える必要はない。多少は借金してもいいだろう」とブルダ教授はロイターに語った。

さらにクラーナのデフレン氏は、ドイツの利用者は引き続き慎重で、自分の返済能力に見合ったものだけを購入していると指摘する。

「3回払いのようなオプションが非常に好まれているのは、たとえば3カ月だけとか、多少は返済を分割することはできても、リボ払いやクレジットカードのように何カ月、何年も債務を引きずることがないからだ」とデフレン氏は言う。

ローンの完済率を見ても、ドイツの数字は高い。SCHUFAによれば、分割払い方式のローンの完済率は2022年で97.9%に達した。

(翻訳:エァクレーレン)

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