ニュース速報
ビジネス

アングル:中国恒大の再編・売却が市場の重荷、信認回復へ長い道のり

2024年02月01日(木)07時21分

 香港の高等法院(高裁)が29日、経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団に清算命令を出し、債権者の長期にわたる手続きが始まった。写真は中国恒大が手掛けた北京の集合住宅。2023年9月撮影(2024年 ロイター/Florence Lo)

Laura Matthews Tom Westbrook

[ニューヨーク/シンガポール 30日 ロイター] - 香港の高等法院(高裁)が29日、経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団に清算命令を出し、債権者の長期にわたる手続きが始まった。

手続きでは中国不動産不況の深刻さが浮き彫りになるとみられ、不動産デベロッパーは、投資家から敬遠され、世界の債券市場から締め出される可能性が高い。

中国恒大の資産は2400億ドル、負債は不動産会社として世界最大の3000億ドル近く。海外の債券保有者が最大の損失を被り、未完成物件の所有者の救済が優先されるとみられる。

再編や資産売却の手続きは、債券・不動産市場や投資家の信認にも大きな意味合いを持つ。中国恒大の社債の取引価格は額面の2%未満。同社の株価は29日に最安値を付けた後、売買停止となった。

値上がりしていた不動産開発株も30日には反落。売上高ベースで国内2位の不動産デベロッパー、万科企業の人民元建て債券も小幅に下落した。

レイリアント・クオンタメンタル・チャイナETFの共同ポートフォリオマネジャー、フィル・ウール氏は「投資家は現時点で、どの銘柄が比較的ダメージが少なく、どの債券の回収率が高いかを推測しているとみられる」と指摘。

「これほど重大なニュースに市場が大きく反応しないのは、いかに悪材料が織り込まれているかを物語っている」とし、中国当局が香港の裁判所命令を承認し、執行を支援すればポジティブ・サプライズになるが、今後の見通しは不透明だと述べた。

投資家の信認の低さは発行市場にも表れている。ディールロジックのデータによると、中国の米ドル建て発行総額はコロナ禍前の2000億ドル超から、昨年は425億ドルまで落ち込んだ。

中国恒大の債務問題が解決すれば、市場の支援要因になるとみられるが、手続きには長い時間がかかる見通しだ。

ノース・オブ・サウス・キャピタル新興市場ファンドのパートナー兼ポートフォリオマネジャー、カミル・ディミッチ氏は「債権者にとって公平かつ公正な方法で手続きが進めば、中国企業が市場アクセスを回復する助けになるはずだ」と指摘。「さらに広く見れば、未完成物件が建設能力のあるデベロッパーに売却・譲渡され、顧客への引き渡しが実現すれば、いずれ住宅購入者の信頼が回復するのではないか」と述べた。

<信頼感の危機>

香港株式市場の本土系不動産デベロッパー株指数は先週、最安値に急落。アナリストは資産売却や再編の手続きが引き続き重しになると予想している。

UBSの中国・香港不動産リサーチ責任者、ジョン・ラム氏は「中国恒大の清算命令で、他の不動産デベロッパーのドル建て債再編交渉が加速する可能性がある」と指摘。「これまでに発表されたドル建て債の再編策には債務の株式化が盛り込まれており、これは株式の大幅な希薄化を意味する。債務不履行に陥った不動産デベロッパーの株価にはマイナスだ」と述べた。

不動産デベロッパーのドル建て債は取引価格が低迷。債務再編策が昨年10月に承認された融創中国の2027年満期債は額面の11%、海外資産の売却手続きを進めている碧桂園(カントリー・ガーデン)の債務不履行債は額面の8.5%前後で取引されている。

確かに、海外市場では信用収縮が世界中に波及するといった懸念は後退している。調査会社チャイナ・ベージュブックのリーランド・ミラー最高経営責任者(CEO)は、負債は多様な形で中国の金融システム内で分散しており、リーマンショックのような事態にはならないとの見方を示した。

ただ、中国恒大の解体が慎重に進められたとしても、すでに多額の損失が発生していることは事実で、大半の投資家は問題が適切に是正されるまで、不動産セクターや中国市場自体に手を出したくないと考えるとみられる。

VPバンクのトーマス・ルプフ最高投資責任者(CIO、アジア担当)は「未販売住宅がどうなるか分からない限り、消費者の信頼感は回復しない。これが依然として大きな問題だ」とし「購入した住宅が完成しなければ、回復に向けて動き出せない。あらゆる消費者が抱える不透明感がここにある」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン首相、モディ氏の首相就任に祝意 

ワールド

プーチン大統領、数週間内に訪朝へ 19日にベトナム

ワールド

防衛装備生産強化に日本の支援必要、DICAS開催で

ビジネス

ECB、今後は慎重に利下げを判断へ=独連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 5

    フランス人記者が見た日本の「離婚後共同親権」が危…

  • 6

    公園で子供を遊ばせていた母親が「危険すぎる瞬間」…

  • 7

    ガスマスクを股間にくくり付けた悪役...常軌を逸した…

  • 8

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 9

    ロシア軍が「警戒を弱める」タイミングを狙い撃ち...…

  • 10

    メディアで「大胆すぎる」ショットを披露した米大物…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しすぎる...オフィシャル写真初公開

  • 4

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 5

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中