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日銀、物価目標実現の確度点検 賃金上昇の価格転嫁に不透明感

2024年01月17日(水)20時01分

日銀は22―23日に開く金融政策決定会合で、賃金・物価の好循環実現への確度がどの程度高まっているか議論する。支店長会議を経て、日銀では今年の春闘での賃上げ実現への期待感がさらに高まっているものの、賃金上昇分のサービス価格への転嫁については不透明感が残るとの声が出ている。写真は日銀本店。東京で23年9月撮影。(2024年 ロイター/Issei Kato/File Photo)

Takahiko Wada

[東京 17日 ロイター] - 日銀は22―23日に開く金融政策決定会合で、賃金・物価の好循環実現への確度がどの程度高まっているか議論する。支店長会議を経て、日銀では今年の春闘での賃上げ実現への期待感がさらに高まっているものの、賃金上昇分のサービス価格への転嫁については不透明感が残るとの声が出ている。2%物価目標の実現が見通せると判断するにはまだ材料が足りないとして、現時点ではマイナス金利解除に慎重な意見が多い。

<支店長会議、好循環「確信」へ決定打とならず>

決定会合の最大の焦点は11日に開かれた支店長会議を経て賃金と物価の好循環についてボードメンバーの確信度が高まったかどうかだ。自律的な好循環形成へ確信が十分に高まれば、2%物価目標の持続的・安定的な達成が見込めると判断してマイナス金利やイールドカーブ・コントロール(YCC)の解除の是非が議論されることになるが、今回の支店長会議は決め手に欠く内容になったとみられる。

支店長会議では、大企業の一部で積極的な賃上げ方針が打ち出される中で「地方でも昨年よりも幾分早いタイミングで賃上げ機運が醸成されつつある」と報告され、賃上げへの期待感は一段と強まっている。一方、賃上げの広がりや程度は「不確実性が高い」との報告が多く、日銀では、中小企業を中心とした賃上げの動向をさらに見極める必要があるとの声が出ている。

支店長会議では、サービス業などで人件費上昇を念頭に置いた値上げを実施・検討する動きが「徐々に出てきている」との報告も見られたが、地域経済報告(さくらリポート)では、人件費上昇分の価格転嫁が難しいとの声も散見された。

日銀では賃金上昇分のサービス価格への波及が今後も進むのか懸念する声がある。原材料価格上昇に伴う価格転嫁の影響が明確にはく落する中で、人件費上昇だけを理由に値上げするのは難しくなっているとの指摘も出ている。

<展望リポート、基調的な物価見通しは維持>

決定会合では「経済・物価の情勢」(展望リポート)が議論される。今回の展望リポートでは、昨年10月時点に比べて原油価格が大幅に下落していることを反映して、2024年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の上昇率見込みを10月時点の2.8%から2%台半ばに下方修正する可能性が高い。その一方で、より基調に近い生鮮食品とエネルギーを除く指数(コアコアCPI)は大きくは変化がない見込み。

日銀は昨年7月、10月と展望リポートごとに物価の目線を引き上げ、その都度、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化して10年金利の上昇を容認してきたが、今回の展望リポートでは物価の基本的な経路について、説明を大きく修正することはないとみられる。

10月展望リポート以降、物価は日銀の見方に沿って推移しており、その意味で物価目標の実現にまた一歩近づいたとの指摘が日銀では出ている。半面、サービス価格が伸び率を少しずつ拡大しているとはいえ、物価目標の達成には不十分との声もある。

<能登半島地震>

1日発生の能登半島地震を巡っては、救援物資の輸送や被災者の2次避難などが最優先の状況。吉浜久悦・金沢支店長は11日の記者会見で、経済への影響は「具体的に言及できる段階にはない」と述べた。

日銀では、地震によるサプライチェーンや今後の北陸地方の観光業、消費マインドへの影響を見極める必要があるとの声が出ている。決定会合の直前まで情報収集を続ける。

(和田崇彦)

ロイター
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